ギリシャ総選挙2023


             大阪唯物論研究会会員 川 下 了

選挙の日の夜のKKE選挙総括集会で、国会前広場(シンタグマ広場)を
埋め尽くしたKKEの党員と支持者たち。中央奥の建物が国会議事堂

 さる6月25日、ギリシャで国会(定数300名。一院制。任期4年)のやり直し総選挙が実施されました。これは、5月21日に行われた総選挙で、過半数の議席を獲得した政党がなく、かつ連立内閣樹立の目途も立たなかったためで、新しい選挙法に基づいて、やり直し総選挙が行われたのでした。

 ギリシャの国会議員の選挙は、比例代表制を基本にしています。最初の総選挙では300議席すべてを各党の得票率に比例させて議席を配分します。ただし得票率が3%に満たない政党には議席は配分されません。やり直し総選挙でも比例代表制で議員を選出するのですが、やり直し選挙では最大の得票率を獲得した政党に、その得票率に応じてボーナス議席が与えられます。第1党が25%以上の票を獲得した場合には20議席のボーナス議席が、得票率が40%を越える場合には最大50議席のボーナス議席が追加で与えられます。そして残りの議席を、各政党の得票率に応じて分配します。

 5月21日の総選挙の結果について、ごく簡単な評価を『ギリシャ総選挙(2023/5)短評』という文書を本ブログでも公表しましたが、今回はその一部を再録しつつ、やり直し総選挙の結果についてお伝えします。

 ギリシャは、人口1,064万人、国土約13万Km2(日本の約1/3)、GDP2,148億ドルの小国です。しかし欧州と中東の接合部に位置し、地政学的重要性により近現代史においても重要な役割を果たしてきましたし、今も果たしつつあります。さらに2009年のギリシャ債務危機以来、欧州の金融システムを揺るがす危険因子の一つとして、欧米の支配層はギリシャの政治・経済に注意を注いできました。

 しかし筆者は別の観点から、ギリシャの政治・経済動向に注意を払ってきました。それは、ソ連と社会主義世界体制崩壊後の国際共産主義運動において、ギリシャ共産党が理論と実践の両面で重要な役割を果たしてきたからです。そういう訳で、今回のギリシャ総選挙を、支配階級の関心とは別の関心から見ることにします。なお外国語のカタカナ表記は、できるだけ発音に近い形で表し、アクセントの位置を下線で示しています。

 

(1)ギリシャ略史

ギリシャの簡略史(1821年~ )

 具体的な選挙結果を見る前に、ギリシャの政治史を極簡単に振り返っておきます。詳しい振り返りは、別の機会に行いたいと思っています。

 ギリシャは長い間、オスマントルコの支配下に置かれていましたが、1832年に独立してギリシャ王国が成立しました。1912年から翌年にかけて再びオスマントルコと戦い、クレタ島を始めとするエーゲ海の幾つかの島をトルコから奪取しましたが、この時は他のバルカン諸国を巻き込む複雑な戦争となり、それは第一次世界大戦参戦へとつながっていきます。

 第二次世界大戦では連合国側に立って参戦しますが、1941年からの4年間、独・伊・ブルガリアの枢軸国による占領支配を受けます。この占領軍に対する抵抗・独立運動で主導権を握ったのはKKEとその武装組織である民族解放戦線(EAM)でした。EAMは全土の大半をその支配下に置くまでにその勢力を拡大しましたが、英帝国主義が、後には米帝国主義が介入して内戦が勃発します。4年間の激烈な戦闘を経て、国内反動と英米帝国主義はKKEとその支持者たちを血の海に沈めたのでした。何千人もの政治犯がマクニソス島やイカア島などの監獄島に送られました。以後1974年までKKEは非合法化され、反動政権が樹立されましたが、人民の抵抗運動は止むことがなく、ギリシャの支配階級と米英帝国主義は、1967年にクーデタによって軍事独裁政権を樹立するに至りました。

 1974年に軍事独裁政権が人民運動によって崩壊して以後は、保守政党のND党と右派社民政党のPASOK党の二大政党制が定着し、2011年まで両党が交互に政権を担当してきました。しかし2009年に発生した財政金融危機は、古い二大政党制の継続を不可能にし、連立政権時代に移行しました。2012年にはND党とPASOK党が他の小政党を巻き込んで大連立政権を樹立しますが、混乱を収拾することができませんでした。
 そして2015年の総選挙で、左派社民主義政党の急進左派連合(SYRIZA)党が地滑り的勝利を納め、ついにND党とPASOK党以外の政党が政権の座に就いたのでした。しかし日本の民主党政権と同様に、政権の座に就くや否やEUの緊縮財政政策と民営化政策を受け入れてしまい、民衆の熱狂的な支持は急速に失われます。そして2019年の総選挙で敗北し、ND党が再び政権の座に就き今日に至っています。

(2)総選挙を迎えたギリシャの経済の経済状況

総選挙を迎えたギリシャの経済状況

 総選挙を迎えたギリシャ経済は、不安定で先行きがはっきりしない状況にありました。名目GDPの伸び率は、2009年の金融恐慌以後、なかなかマイナス成長から脱出できない状態が続いていました。
 2015年に経済成長率はマイナス20%を記録し、これがSYRIZA党政権誕生の最大の要因でした。SYRIZA党政権の下で経済成長の一定の回復が見られましたが、2018年からは再び悪化し始め、2020年には再びマイナス成長に転落してしまいました。これがSYRIZA党政権にとどめを刺しました。

 経済成長の鈍化やマイナス成長は、一般的には消費者物価を押し下げる方向に作用します。ギリシャにおいても、2011年以降、消費者物価は低位安定してきましたが、2021年以降急速な上昇を見せています。このことが今回の総選挙の動向に影響を与えたと思われます。また失業率は2013年以降傾向的に低下しており、このことが政権与党であるND党の得票率が前回並みに留まった要因の一つであると考えられます。

(3)投票率の推移

総選挙の投票率の推移

 今回の総選挙の具体的結果を見る前に、やり直し総選挙を含めた過去8回の総選挙における投票率を見ることにします。

 この15年間、有権者の数は一千万人弱で、ほとんど変わっていませんが、投票率は傾向的に低下しています。2009年10月の総選挙の投票率が70.9%であったのに対して、今回のやり直し総選挙の投票率は52.9%で18%も低下しています。投票率の傾向的低下は、多くの先進資本主義諸国に共通の現象ですが、ギリシャにおいても政治不信と現行の『民主主義制度』に対する冷笑的雰囲気が広まっています。

 やり直し選挙は最初の選挙よりも投票率を下げる傾向があります。2012年、2015年、そして今回の総選挙においてもそうなりました。特に今回は8%以上も下がりました。最初の選挙で議席を得られなった政党に投票した有権者は、やり直し総選挙で投票場に足を運ばない傾向があること、やり直し総選挙ではND党がボーナス議席を得て過半数の議席を確保することがほぼ確実視されたためです。なお多くの統計ではギリシャの人口を1,064万人(2021年)としていますが、これは有権者の数とほぼ同じであり整合性がありません。原因を調べてみましたが、AIのBINGの答えも「私には分かりません。」でした。

(4)5月総選挙結果の4つの特徴

  5月の総選挙は、次の4点によって特徴付けられます。

  • 保守本流の政権与党ND(ΝΔ:新民主主義)党が、146議席を得て(得票率40.8%)第1の地位を維持しましたが、過半数の150議席には届きませんでした。ND党は、前回総選挙(2019年)に比べて得票率を0.94ポイントUPしましたが、議席を大きく減らしました。これは後でのべるボーナス議席(50)が無くなったからです。
     ギリシャの経済状況はこの20年間低迷しており、マイナス成長からなかなか抜け出せていません。2021年にはプラス成長を記録しましたが、2022年には再びマイナス成長に戻りました。しかし失業率は2013年をピークに一定の改善を見せており、これが、スキャンダルが続発しているにも拘わらず、政権与党が得票率を維持した最大の要因と考えられます。
  • 最大野党のSYRIZA(ΣΥΡΙΖΑ:急進左派連合)党が15議席を失い、大幅に後退しました。かつての日本の民主党政権のように、2015年に政権奪取をした後、結局はEUの緊縮政策を受け入れて、2019年の選挙で政権を喪失してしまい、今回選挙でも引き続き得票率を大きく低下させました。
  • 第3に、KKE(ギリシャ共産党)が10議席増やして大きく前進しました。2012年のギリシャ金融危機直後の総選挙で大きく得票率を下げた(4.5%)まま、ここ10年間得票率が5%台に低迷していましたが、今回は2%以上得票率をUPさせました。ウクライナ戦争の混乱と反共宣伝が吹きまくる中の前進に注目すべきです。
  • 正真正銘のファッショ政党であるGD(ΧΑ:黄金の夜明け)党が、選挙という場から退場しました。2020年10月7日、アテネ控訴院は同党の政治指導者を含む68人の被告に対する評決を発表し、ニラオス・ミハロリコス書記長と他の著名なメンバーおよび元国会議員6名が犯罪組織運営の罪で起訴されました。移民と左翼政敵に対する殺人、殺人未遂、暴力的攻撃の罪で有罪判決が言い渡され、指導者は刑務所に送られました。その結果、同党は今回選挙には候補者を立てることができませんでした。ただ、同党の組織は、ギリシャ警察内に非公然の組織を作って根を張っているとの指摘もあり、警戒心を解くことはできませんが、一応は封じ込めたと言えるでしょう。
  • 半数に近い議席を獲得して第1党の地位を維持したND党は、少数政党を抱き込んで政権を発足させるか、6月にも再選挙を実施して単独政権を目指すかの選択を迫られました。ミツォキス首相(ND)は、21日の夜に勝利宣言を行い、「『安定したかじ取りが必要だ。市民はNDによる自立した政府を選んだ』(22日付『読売新聞電子版』)と述べ、やり直し総選挙に挑んで単独政権を目指す意向を示しました。5月の総選挙でのND党の得票率は40.8%でしたので、やり直し総選挙で同じ得票率を獲得できれば50議席のボーナス議席が転がり込んできて、過半数の議席の確保が十分に見込めるからです。

(5)選挙制度改定とその影響
 先に述べたように、ギリシャの国会は定数300の一院制議会です。議員の任期は4年です。今回の総選挙から選挙制度が変わりました。48ある複数定員選挙区から280人、8つある単独定員選挙区から8人、全国区から12人の議員が選出されます。それぞれ比例代表制で、複数定員選挙区では複数人分投票用紙に書き込みます。

 4年前までの選挙制度では、定数300のうち250を比例代表制で選び、そして第1党にはボーナス議席として50議席が追加で与えられました。比例代表制による選挙では、小党乱立状態が生じやすく、どの党も安定した多数を占めることが難しくなります。その結果多数の党の連立政権となるのですが、意思決定に時間が掛かったり、離脱政党が頻繁に出たりして、やはり安定的な政権ができにくくなります。そこで考え出されたのがボーナス議席です。小党乱立状態を緩和するための措置だとされている「得票率が3%に満たない政党には、議席が配分されない」という『足きり条項』は、新しい選挙制度でも残されました。

 ボーナス議席が完全に無くなったかというと必ずしもそうではありません。総選挙で過半数の議席を獲得する政党がなく、かつ連立政権の目途もたたない場合には、やり直し総選挙が行われます。やり直し総選挙では、前述したようなやり方でボーナス議席が復活します。前述したようにND党は、このボーナス議席を獲得することによって安定多数の獲得を目指したのでした。

(6)やり直し総選挙結果の幾つかの特徴

政党別の得票率の推移(2012/6~2023/6)
  • 政権与党のND党が40.5%の特票率を得て、過半数の158議席(ボーナス議席50を含む)を獲得し、引き続き単独政権を維持することに成功しました。この得票率は5月総選挙時より0.27ポイント低く、2019年の総選挙時より0.67ポイント高くなっています。ただ得票数を見ると、5月総選挙より29万票強減らしており、2019年の総選挙時より14万票近く減らしています。
  • 野党第一党のSYRIZA党の得票率は、5月総選挙より2.25ポイントも低い17.8%に止まり、議席はボーナス議席の影響もあって24少ない47議席に止まりました。2019年の総選挙時と比べると、13.71ポイントも減らしており、さらに2015年の総選挙時と比べると、17.64ポイントも減らしています。この8年間でその得票率を半減したことになります。SYRIZA党の凋落が、今回総選挙の特徴の一つとなりました。
     SYRIZA党の支持率の急落には、同党の分裂も大きく影響しています。2019年の総選挙からは、SYRIZA党から分裂したPK(自由への道)党とMeRA25(欧州の現実的不服従運動)党が参戦し、SYRIZA党の票を奪いました。2019年にはMeRA25党が9議席を、今回の再総選挙ではPK党が8議席を獲得しました。再総選挙におけるSYRIZA党の得票率にPK党とMeRA25党の得票率を加えると23.48%になりますが、それでも2015年の35.46%に遠く及びません。日本の民主党政権同様にSYRIZA党政権もまた、下野すると分裂して急速に弱体化して崩壊過程を歩んでいます。
  • 右派社民政党のPASOK党は、決算書改ざん等により危機を深化させた責任を問われて下野しました。2015年の総選挙の得票率は6.29%にまで低下しました。緊縮政策反対運動が発展する中で、支持母体であった公務員労組を束ねる公務員連合(ADEDY)と民間労組を束ねる労働総同盟(GSEE)の二大ナショナルセンター(合計組合員数250万人)において、PASOK党からSYRIZA党へ支持が急激に移動した結果でした。
     立て直しを図るPASOK党は、中道派少数政党と選挙ブロックを形成して2019年以降の総選挙に臨みます。またSYRIZA党に幻滅した支持者の一部がPASOK党に回帰する現象もみられ、2019年の総選挙では得票率8.10%、今回の5月の総選挙では11.46%、6月の再総選挙では11.84%と順調に支持率を回復しており、これも今回の総選挙の特徴の一つとなっています。
  • 文字通りのファッショ政党であるEX(黄金の夜明け)党は、2015年の総選挙では6.99%の得票率を得て18議席を獲得しましたが、殺人や放火や麻薬取引なども行う露骨極まるファシズムに対する抗議行動も高まり、2019年の総選挙での得票率は2.93%に急落して議席の獲得はなりませんでした。そして前述したように2020年に同党の幹部が多数逮捕されて下獄したために、今回の総選挙には候補者を立てることができませんでした。
     ところが6月の再総選挙には、EX党元幹部たちの支持を受けたスパルタ人(Σπαρτιάτες)党が候補者を立て、得票率4.63%を得て12人の国会議員を獲得しました。公然とファシズムを掲げる政党が、国会に足場を築いたことは、ファシストたちが依然としてギリシャで根強い支持を得ていることを示しており、このことも今回の総選挙の特徴と一つとなっています。さらに民族主義的右派政党あるEL(ギリシャの解答)党とNIKI(勝利)党が、再総選挙でそれぞれ12議席と10議席を獲得したことを合わせると、反ファシズム闘争の重要性が高まっていると言えます。
  • KKEのクンバス書記長は、「ファシズム=ナチズムはその性質上、何らかの立法措置によって対処することはできず、実際に危険な道を切り開いていることが確認されています。それは、労働運動・人民運動の仕事です」と述べ、反ファッショ闘争における大衆を動員することの重要性を強調している点も、極めて重要な指摘です。

(7)KKEの画期的前進

  • このような状況の中で、KKEは6月再選挙でも得票率を0.46ポイント上積みして21議席を獲得しました。得票率をUPしたにもかかわらず議席が5減ったのは、不公平なボーナス議席制度に依るものです。
  • 先に見たように、KKEは5月の総選挙で、前回の2019年の総選挙と比べて、その得票率を1.93%上積みし、11年ぶりに7%台を回復させました。その結果、議席は15議席から26議席に増えました。得票数は12万7千票余り上積みして42万7千票になりました。投票率が3.3%上がったことを考慮しても、大きな上積みを勝ち取ったと言えます。
  • 6月のやり直し総選挙では、得表率をさらに0.46ポイント積み上げ、7.69%を記録しました。やり直し総選挙では、一般的に上位2党に票が集中する傾向があります。それはやり直し総選挙が上位2党のいずれを政権党にするかを決める決戦投票的性格を持っているからです。最初の総選挙で得票率3%未満で議席を獲得できなかった政党に投票した人は、再選挙では棄権に回るか第1党あるいは第2党に投票する傾向が高いだけでなく、最初の選挙で議席を獲得した第3党以下の政党に投票した人も、その一部は政権政党の選択として、第1党か第2党に投票先を変えるためです。2012年の総選挙では、KKEは最初の総選挙での得票率のほぼ半分を再選挙で失いました。従って、今回の再選挙でKKEが得票率の上積みに成功したことは特筆するに値いします。
  • さらに重要なことは、KKEがアティナ、ピレス、西アッティキーと東アッティキ、テッサロキ、トゥラといった労働者階級・人民居住地区で得票率を伸ばしたことです。ブルジョア民主主義に基づく選挙では、有権者が如何なる階級に属するかに関係なく等しく1票です(尤も、選挙区の定数によって1票の格差はあるのですが)。しかし階級闘争と社会主義の学説に依拠する共産主義者にとっては、労働者階級・人民諸階層がどのような意志を表示したかは重要です。ギリシャの労働者の大半を組織する労働組合の二大ナショナルセンターは、各種の社会民主主義者の強い影響下にあり、KKEは戦闘的な中小労働組合を独自に組織して、『全ギリシャ戦闘的労働者戦線(PAME:Πανεργατικό Αγωνιστικό Μέτωπο )』を結成しています。
  • しかしKKEが飛躍的に力量を増大させるためには、社民主義者が大きな影響力を持っている労働組合の二大ナショナルセンターの労働者たちをKKEの側に引き付ける必要があると筆者は考えています。この問題については、後で再び立ち返ることにします。

(8)KKEの国会議員選挙での得票率の変遷

KKEの得票率の推移(1974~2023年)

 今回の総選挙におけるKKEの躍進の意義を理解するためには、1974年に合法化を闘い取って以降のKKEの歩みを知っておくことが必要です。それで以下簡単にそれを振り返ります。

  • KKEは、内戦で多くの党員と支持者を殺害され、生き残った者も監獄島に送られるか海外亡命を余儀なくされました。それでもなお1974年の軍事独裁体制打倒の闘いで重要な役割を果たしました。
  • KKEは、合法化された1974年の最初の総選挙に、他の左翼諸党派や無党派の活動家を含む選挙ブロック『統一左翼』を結成して参戦し、9.47%の得票率を得て8議席を獲得しました。1989年の2回の総選挙と1990年の総選挙では、選挙連合である『運動と環境の左翼連合SYN(Συνασπισμός)』に加わって参戦し、1989年6月の総選挙では13.13%の得票率と28議席を獲得しました。これが今日までKKEが獲得した最高の得票率と議席です。ここまでがKKEの勢力拡大期でした。
  • しかし1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、1991年末にはソ連邦で反革命が勝利し、ソ連邦解体という歴史的大事件が起こるや否や、KKE内部におけるユーロコミュニズム派とマルクス・レーニン主義派の対立が決定的なものになり、中央指導部の多数を占めていたユーロコミュニズム派は党の解体とSYRIZA党への合流を決めました。この時、中央委員会のおよそ45%、地方委員会の過半数が離党したと言われています。解党に反対したマルクス・レーニン主義派はKKEの再建に乗り出しましたが、受けた打撃は甚大でした。
  • 1993年の総選挙には、選挙連合SYNから離脱してKKE単独で参戦しましたが、得票率が4.54%、議席数が9にまで急落しました。この時の経過が、KKEのSYRIZA党に対する強烈な反発を生み、共産主義者と左派社民主義者の共同行動を大きく阻害することになります。また修正主義批判に力点を置くあまり、コミンテルン第6回大会の極左路線へ回帰する傾向も生まれました。
  • ここから2012年5月の総選挙まで、KKEは地道な日常活動を積み上げると同時に、理論・思想闘争を強化することによって党の統一と団結を回復していきます。2009年に爆発した財政・金融危機が収まらない中で実施された2012年5月の総選挙で、KKEは8.48%の得票率と26議席を獲得しました。ところがその1カ月後に行われたやり直し総選挙で、KKEの得票率は4.50%へと急減します。わずかひと月で得票率がほぼ半減してしまったのです。何が起こったのでしょうか。

激動期の政党支持率の推移
  • 2009年の総選挙から2015年1月にかけて、ギリシャ政界は激動します。財政・金融危機が爆発した2009年の総選挙で、43.9%の得票率を得た右派社民政党のPASOK党が、ND党を政権の座から引き下ろして4年ぶりに政権に復帰します。しかしPASOK党政権は危機を収拾するどころか、決算書を改ざんするなどして混乱に拍車を掛けます。その結果2012年5月の総選挙では、得票率が前回選挙の3分の1以下に激減し、政権は再びND党に戻ります。一方で、2009年には得票率が4.60%で第4党であったSYRIZA党が、16.78%の得票率を得て第2党に躍進します。ちなみにKKEは、2009年の総選挙で7.54%の得票率を得て第3党に、2012年5月の総選挙でも8.48%の得票率を獲得して第3党の地位を守りました。いずれにしても2012年5月の総選挙は、PASOK党の没落とSYRIZA党の大躍進によって特徴付けられ、1974年来続いてきたND党とPASOK党の二大政党制時代の終わりを告げるものとなりました。
  • 2頁のギリシャ略史表を見れば分かるように、1974年の民主化以降のギリシャ政治は、保守政党のND党と右派社民政党のPASOK党が政権をたらい回しする二大政党制によって担われてきました。しかし2009年に爆発した財政・金融危機は、もはや従来の二大政党制の枠組みでは処理できないことを広く知らしめました。労働運動では、右派社民から左派社民への主導権の移行が起こりました。2009年の総選挙では、PASOK党とND党の得票率を合わせると77.39%になり、依然として二大政党制が維持されていました。
  • ところが2012年5月の総選挙では、両党の得票率合計は32.03%に激減し、二大政党制の崩壊が露わになりました。そして2009年の総選挙では4.60%の得票率でKKEの後塵を拝して第4党に甘んじていたSYRIZA党が16.78%の得票率を得て第2党に大躍進しました。政権与党であったPASOK党は得票率を3分の1以下に急落させましたが、野党第1党のND党も得票率を大きく低下させ、第2党に躍り出たSYRIZA党との得票率の差は、わずか2.07ポイントでした。第1党のND党の議席がボーナス議席50議席を加えても108議席にしかならず、過半数の150議席に遠く及びません。その結果、6月にやり直し総選挙を行うことになりました。
  • 長年に渡る二大政党制に終止符が打たれ、新しい政治が始まるという希望が広く民衆の心を捉えました。支配階級もまた、民衆の憤激を鎮めるためには、左派社民政権の誕生を受け入れても良いと考え始めました。再選挙の結果は、ND党の得票率が29.66%で、SYRIZA党の得票率が26.89%で、ND党が僅差で第1党を確保して政権を担当することになりました。ND党政権の緊縮政策は、民衆の生活破壊を一層推し進め、その憤激を鎮めることが出来ません。そして2015年1月の総選挙は、ND党政権を退場させ、SYRIZA党政権を誕生させるという画期的な政治的出来事となりました。
  • 新しい政治が始まるという民衆の希望は、SYRIZA党への票の集中という形をとり、KKEもその煽りをまともに受けることになります。2012年5月総選挙でKKEに投票した53万6千票のうちの半分近い25万9千票が、一カ月後の再総選挙時にはSYRIZA党に流れたと推定されます。これはKKEに大きな衝撃を与えました。
  • KKEは、労働者と勤労諸階層の支持性向がPASOK党からSYRIZA党に移動しつつある状況を踏まえて、SYRIZA党に対する批判を強めました。「騙されてはならない。SYRIZA党もPASOK党と同様に資本家階級の代弁者だ!」「SYRIZA党の反緊縮政策は口先だけのもので、政権の座に就けば必ず裏切るであろう!」と。だがこの選挙キャンペーンは、ほとんど効果を上げなかっただけでなく、逆効果だったと思われます。この問題は日本の現実に置き換えて考えれば容易に理解できるでしょう。14年前の民主党政権誕生の際、選挙キャンペーンの主軸を民主党批判に置いて闘うのは馬鹿げていることは明白です。共産主義者が、民主党政権の限界や危険性を語らないとすれば、それは重大な誤りです。しかし民主党批判に重点を置くなら、それはより大きな誤りです。民衆は、主として自分の経験を通して政治を学びます。民衆が自公政権に代わる政権を待望している時に、また民主党政権よりも左に位置する政権誕生の可能性がない中で、民主党批判に重点を置いた選挙キャンペーンは、民衆の共感ではなく反感を呼び起こすでしょう。自公政権よりましな民主党政権の誕生を肯定的に評価しつつ、同時にその限界と危うさを指摘することが共産主義者の務めです。従って、2012年6月のKKEの敗北の原因の一部は、KKEが採用してきた社民政党主要打撃論と統一戦線に対する消極的態度にあったといえます。
  • この2012年6月に手痛い敗北から立ち直ることは決して容易ではありませんでした。その後の総選挙におけるKKEの得票率はなかなか回復しませんでした。2015年1月の総選挙が5.49%、同年9月の総選挙が5.55%、SYRIZAが下野した2019年8月の総選挙でも得票率は5.30%に止まりました。左派社民政党のSYRIZA政権は、KKEが予測して人民に注意を促した通り、財政援助と引き換えにEUが要求していた緊縮政策や公共部門の民営化政策を受け入れて、反人民的諸政策を順次実行していきました。その結果として人民の支持はSYRIZA政権から離れ、SYRIZA政権は崩壊します。
  • 民主化以降続いた保守政党と右派社民政党の二大政党制が終焉し、民衆の期待を集めて誕生したSYRIZA政権は、4年余りであっけなく崩壊しました。KKEにしてみれば、「言った通りになっただろう。だから社民政党はダメなのだ。二大政党制に対する代案は、新たな社民政権の誕生ではなく、労働者権力の樹立だ!」ということでしょう。しかし実際に起こったのは、SYRIZAからKKEへの票の移動ではなく、保守政党NDの復活でした。SYRIZAから離反した票の一部は右派社民政党のPASOK党に回帰しました。
  • 「だから言ったじゃないか!」という態度では、SYRIZAから離反した票はKKEには多くはやってこないことが明らかになったと言えるでしょう。KKEは、無党派層の中に入り込み、青年労働者や学生、あるいは女性の闘争を組織し、党と労働者・人民との結び付きを強化してきたと言います。その成果が今回の総選挙で現れたと総括しており、クンバス書記長は「これらの絆は強いですし、さらに強化する必要があります」と自信のほどを示しました。
  • 今回の総選挙の結果は、KKEの努力が一定の成果として結実したことを示しています。そしてそれが更に発展して得票率10%の壁を突き崩すことができるのか、それとも一時的な前進に止まるかは、今後のKKEの闘いに掛かっています。

(9)注目されるKKEの今後の闘い

 さて、KKEの今後です。クンバス書記長は、「KKEへの投票が、状況次第の一時的なものではないことは、今日の結果から明らかです。それは、職場、近隣地域、村、保健、教育、文化の場において、戦闘的な結びつきが存在することを証明しています。」(付属資料4の『6月25日の声明』)と語っています。筆者もまたそうあって欲しいと思いますし、今後の闘争とKKEの強化・発展に期待しています。

 しかしそうなるためには、KKEが解決しなければならない理論的問題があると筆者は考えています。そのことについて、筆者が考える幾つかの問題を以下に記したいと思います。

  • まず前述したように、社民主要打撃論を改め、統一戦線戦術をより重視すべきだと考えています。クンバス書記長は、6月25日の声明の中で、「人民の闘争の発展と労働運動の高揚のために、議事日程に上っている諸問題をめぐって、この期間を通じてKKEに接近してきたすべての人々と、彼らが今回の選挙でどの党に投票したかに拘わらず議論と共同行動を続けることが決定的に重要です」(太字化は筆者)と述べています。このことを無党派層だけでなく、左派社民主義者にまで拡大できるなら、KKEが得票率10%の壁を突破してギリシャ政治の『左転換』を実現することができるのではと考えています。KKEは今のところ、左派社民勢力との共同行動に否定的な態度を変えていませんが、KKEが社民主要打撃論を克服するなら、その影響力は飛躍的に発展し、ギリシャ政治の『左転換』を実現して、社会主義革命への展望を開くことになると筆者は確信しています。
  • その過程において、社会主義を目指すのではないけれど、SYRIZA政権よりは左の、切実な人民の改良的要求を一定程度実現できる政府の樹立が日程に上ることでしょう。そのような政権に対してKKEは、個別課題について閣外協力はするが、例外的ケースを除いて入閣すべきではありません。そのような政権は、反独占闘争の一定の段階で現れる政治的局面であって、過渡的・一時的なものであり、さらに左に、つまり社会主義を目指す政権に向かって進むか、ファシズムから右派社民政権までの様々な形の政府に逆戻りするか、いずれかでしかありません。
  • 上で「例外的ケースを除いて」と書きましたが、その例外的ケースとは、単に議会での多数派だけでなく、あらゆる権力機関を人民のコントロール下に置くような条件が成熟した場合、つまり社会主義革命の主体的条件が整いつつある場合は、そのような過渡的政府に参加して指導権の握ることが許されるだけでなく、そうしなければなりません。
  • 次に、20世紀の社会主義の総括において、スターリンとその体制についての評価を明確にすべきだと考えています。なぜなら、20世紀の社会主義、即ちソ連邦と社会主義世界体制の崩壊は、世界帝国主義の攻撃に屈したという側面はあるものの、本質的にはその内部に存在した欠陥によって、内部矛盾によって生じたと考えられるからです。そしてその欠陥の一つが、スターリンとスターリンが築き上げた統治システムです。それは、社会主義史上最大の悲劇であり汚点である大粛清を生み出しました。従って共産主義者は、この問題に対する徹底した自己批判を求められており、21世紀の社会主義は、そのような悲劇的犯罪が二度と生じないためのシステムを組み込んだものでなければなりません。ところでKKEは、筆者が知る範囲では、スターリンとその体制についての評価が不明瞭です。むしろフルシチョフによるスターリン批判のやり方に批判的態度を示しています。確かにスターリン批判のやり方は重要であり、反共主義者のそれとは峻厳な区別が求められます。その上で、この問題に対する深刻な自己批判は必須のものと筆者は考えており、KKEがこの問題に対して不明瞭な態度を取っている限り、飛躍的前進の足かせになるのではないかと危惧しています。
  • KKEの社会主義革命論について、本稿で本格的に言及することはできませんが、幾つかの疑問点は記して置きたいと思います。2013年の第19回大会で採択されたKKEの綱領では、革命情勢を次のように説明しています。「革命的情勢へと導く諸要因を前もって予想することはできない。経済危機の深化や、軍事的衝突の間際にまで行きつつある帝国主義間矛盾の先鋭化が、ギリシャにそのような諸条件を作り出す可能性がある。防御戦であれ攻撃戦であれ、ギリシャが帝国主義戦争に巻き込まれる場合には、党は、ブルジョア階級――国内のものであれ、国外のもの(侵略者)であれ――の完全な敗北をもたらし、それを権力の獲得と結びつけるために、あらゆる形態で、労働者人民の闘争の独自の組織化を先導しなければならない」と。これは「帝国主義戦争を内乱へ」という古典的命題を忠実に引き写したものと言えます。しかし、核戦争への転化の危険を内包した帝国主義戦争の防止が至上任務となっている今日、帝国主義戦争の勃発を契機とする革命情勢の出現をメイン・ストーリーにした社会主義革命論について、筆者は疑念を抱いています。
  • このKKEの立場はウクライナ戦争についても貫かれます。ウクライナ戦争が帝国主義間戦争であるのはその通りです。しかし「帝国主義戦争を内乱へ」というスローガンをそのまま掲げることには同意できません。この戦争において、いずれの側をも支持してはならず、両国人民の連帯を拡大して戦争を遂行する政府を一刻も早く退陣させなければなりません。その際、社会主義を支持する人々を結集して社会主義政権の樹立を直接目的にするのではなく、戦争と人民抑圧に反対する広範な人民を結集して戦争遂行政府を退陣に追い込むことが決定的に重要です。戦争が1日長引けば、それだけで膨大は人命と莫大な富が破壊されます。さらに危険なのは、戦争の泥沼化が核戦争に転化する危険性を高めているため、何よりの即時停戦と和平交渉再開を実現することが必要で、それゆえ戦争遂行政府を退陣に追い込むことが必要です。
  • 一国社会主義革命についてのKKEの見解についても、筆者は疑問を抱いています。KKEの綱領は、「最初に一国あるいは一群の国々で命的情勢が形成され、社会主義革命が遂行されて勝利する可能性は、資本主義の経済および政治の不均等発展の法則から導き出される。社会主義革命の議事日程を立てるための前提諸条件は、世界水準で同時には形成されない。帝国主義の連鎖は、その最も弱い環において破られる。」と述べています。この部分も、一国における社会主義革命勝利の可能性についての古典的命題を引き写したものになっています。
  • レーニンがこの命題を定式化したのは、ドイツ革命の潮が引き、当分の間ソ連邦一国で社会主義権力を維持せざるを得なくなったとき、その可能性を物的基礎にまで遡って明らかにするためでした。そしてソ連邦のような広大な領土と自立可能な資源を保有している国においては、帝国主義間矛盾を巧みに利用すれば一定の期間持ち堪えることができると主張したのでした。ボリシェヴィキ内の『左翼』反対派は、屈辱的なブレスト・リトウスク条約を拒否し、一か八かの闘いをドイツに挑み、世界革命を実現するのだと主張しました。いずれが正しかったかは歴史が審判したところです。
  • ところでレーニンは、この「一国における社会主義革命勝利の可能性についての命題」を、「ソヴィエト連邦という特別な国家」と「一定の期間」という条件付きで定式化したのでした。しかしスターリンは、この条件を取り除き、普遍的に妥当する命題に変えてしまいました。その結果、社会主義革命は本質的には世界革命であるということが忘れ去られ、ソ連邦の当面の利益が世界革命の利益に優先するという場面が見られるようになりました。
  • 世界経済が著しくグローバル化した今日、小国が一国で社会主義革命を成し遂げる可能性は著しく低いものになっています。ギリシャにおいて他の欧州諸国に先駆けて社会主義政権が誕生したとしましょう。するとUE参加の帝国主義諸国や米英帝国主義は直ちに経済封鎖を行うでしょう。ギリシャの独占資本や海外資本は国外逃避するでしょう。そのような中でも経済を順調に発展させることは可能でしょうか。少なくともギリシャに対する経済封鎖に同調しない周辺諸国が必要でしょう。筆者は、ポルトガル、スペイン、イタリアの地中海諸国が共同で社会主義を目指す戦略が必要だと考えています。21世紀の先進資本主義国における社会主義革命は、域内の自立的経済が可能となるような一定の範囲での数カ国の共同事業となるだろうと筆者は考えています。このことは、社会主義革命以前の問題としても、つまり労働者人民の何等かの重要な生活・生存条件改善のための闘いにおいて、一国での闘争だけでは実現が著しく困難になっているという事実によっても示唆されています。核危機と環境危機が、この問題を鋭い形で提起しています。
  • マルクス・レーニン主義の再構築を自らの任務としている筆者は、以上のような関心を持ちながら、今後のKKEの闘いと理論活動を注目していきたいと思っています。

 

付属資料1

KKEのホームページの報道(5月22日)

(訳者注:選挙関係の数字は、最終結果でないために後に若干の変更がある)

得票率7.23%、得票数425,000票、議席数26を獲得した国会選挙でのKKEの強化は、諸勢力の否定的相関関係の中での肯定的なワン・ステップである

 2023年5月21日の選挙は開票が99.7%完了し、得票率7.23%、得票数425,795票(+126,000票)、議員数26名(+11名)を獲得したKKEは、得票率2%増という重要な成果を上げた。

 選挙では、新しい社会民主主義政党である『急進左翼連合〔SYRIZA〕』(20.07%)と『欧州の現実的不服従戦線〔MeRA25〕』(2.62%)—— 同党は3%仕切り条項を越えられずに獲得議席ゼロ —— が大幅な減少を見せる中で、右翼政党の『新民主主義〔ND〕』(40.79%)が勝利した。 社会民主主義の最古の政党である『全ギリシャ社会主義運動〔PASOK〕』(11.46%)が勢力を伸ばし、民族主義政党の『ギリシャの解答〔GS〕』(4.45%)は前回選挙に続いて再び議席を獲得した。詳細な結果は次の場所で確認できる。

https://inter.kke.gr/en/articles/Significant-rise-of-the-KKE-a-hopeful-message-for-the-people/

地域別のKKEの得票率(5月総選挙)

 5月21日の選挙で、KKE はアティナ(アテネ)、ピレス、その他の大都市の労働者階級の居住区である都市中心部で大幅に支持率を上げ、10%近くかあるいはそれを超えた。 全国的に見てKKEは、ギリシャの13地域のうち12地域で前回2019年の選挙と比べて得票率が42%増加した。KKEは海外の有権者の間でも10%以上を獲得した。かつては共産主義者の亡命地であったイカア島では、得票率35%で1位となった。

 ギリシャ議会300議席中の146議席を獲得した与党『民主主義』は、議会の絶対多数を確保するために他党と連立政権を組まないことを決定した。その結果、ギリシャは新たな議会選挙を迎えることになり、それは2023年6月25日に実施される可能性が最も高い。新たな選挙は異なる選挙法に基づいて実施され、第1党に40議席のボーナスが保証され(注1)、単独政権の樹立が可能となる。5月21日に獲得した26議席を維持するためには、KKEは得票率(注2)と得票数を新たに増やす必要がある。

 5月23日、KKEの中央委員会が開催され、この結果を「諸勢力の否定的相関関係の中での肯定的なワン・ステップ」と評価し、党の政治闘争を激化させて新たな選挙でさらに強くなるという目標を設定した。KKE中央委員会声明の翻訳版を近日中に公開する予定である。

 幾十もの共産党・労働党に対して、選挙前期間を通してわが党に寄せられた支援と、KKE中央委員会本部に届けられた祝電に、感謝申し上げたい。

——————————————

〔訳者注〕

(注1)「第1党に40議席のボーナス議席が与えられる」と記述されているが、前述の選挙制度改定によって、ボーナス議席の数は、第1党の得票率に応じて20~50議席の範囲で与えられる。

(注2)やり直し選挙では、ボーナス議席が存在し、第2党以下はその分を除いた議席を得票率に応じて獲得することになり、第1回選挙と同じ得票率では議席は減少する。

https://inter.kke.gr/en/articles/The-strengthening-of-the-KKE-in-the-parliamentary-elections-with-7.23-425000-votes-and-26-MPs-is-a-positive-step-within-a-negative-correlation-of-forces/

 

付属資料2

トゥリス・クンバスKKE中央委員会書記長の5月21日の声明
KKEの顕著な躍進、それは人民にとっての希望に満ちたメッセージ

 ジトゥリス・クンバスKKE中央委員会書記長は、選挙の夜に次の声明を発表しました。

 「KKEの中央委員会を代表して、私たちは、今日この一歩を踏み出し、KKEの顕著な躍進をもたらしたKKEへの投票を行った、幾千人もの労働者と若者に挨拶を送ります。私たちは、この選挙結果に貢献し、最善を尽くしたKKEとKNE(ギリシャ共産主義青年団)の幾千人ものメンバーと幹部を祝福したいと思います。

 この結果は、過去数年間に共産主義者と共に闘争や重要な行動に参加した労働者と人民の経験の果実です。とりわけ、候補者として、あるいはKKE の強化に個人的かつ多面的に貢献することによって、この選挙戦で私たちと力を合わせてくださった方々に感謝したいと思います。

 わが党の周りに結集した新旧諸勢力は、今日、人民の反撃の道、大衆性を備えた階級闘争、労働組合運動全体の再結集、諸独占体と資本と資本主義に立ち向かう社会的同盟に、新たな推進力を与えることができます。KKEの政治的影響力の強化、特に国内の重要な都市中心部における、大都市の労働者階級の近隣地域における、また例えばアッティキー(Αττική)(注3)のような産業労働力と一般の労働力の大部分が集中している諸地域におけるKKEの政治的影響力の強化は、明日への道を切り開く有望なメッセージです。

 ND(新民主主義)党、SYRIZA(急進左翼連合)党、PASOK(全ギリシャ社会主義運動)党のブルジョア諸政党間の勢力関係が今日の選挙で明らかになりましたが、それは、同様の反人民的方向性を継続する政府を樹立する可能性だけでなく、野党となるであろう諸勢力からの合意と支持も示しており、それは、民間部門と公共部門の労働者、自営業者、科学者、農民、年金受給者、若者を犠牲にした大資本の利益のためのものです。

 KKEがこれまでずっと指摘してきたように、彼らの個別的な違いや対立にもかかわらず、彼らの基本的な戦略的諸政策と基本的な方向性において、彼らが一つに収斂しているのは明らかです。それだけではありません。特にSYRIZAは、過去4年間、政権を握っていた時も、また野党時代にも、人民の保守的方向転換への主要な媒体となってきました。そして最終的には、新民主主義の横行に燃料を供給しました。従ってギリシャの人民と若者は、明日から、復興基金の新たな前提条件 —— 削減と緊縮の新ラウンドや厳格な財政政策 —— 履行のための新たな攻撃の波に、新たな経済恐慌に、ウクライナにおける帝国主義戦争に関係する危険な展開に、そしてギリシャのそれへの一層の加担に、またNATOの傘の下でのギリシャ・テュルキエ関係にかかわる否定的解決に、直面することになるでしょう。これらのすべてが、出現する新たな反人民的政府によって実行されるでしょう。これらすべての反人民的な諸政策に直面する中で、支持も、寛容も、妥協も、絶対あり得ません!

 KKEは、議会の中でも、また議会の外でも、人民と若者の、命と収入とすべての権利を守るための階級的で人民的な闘いの側に立ち、わが人民にとっての唯一の希望の持てる野党となります。

 新選挙の意図やシナリオは、政府を樹立できないからではなく、彼らが、脅迫的ジレンマを抱える人民の投票を変え、新選挙法に基づく票と議席を掠め取ることを望んでいるからです。従ってこの場合、今からKKEのさらなる強化に備える必要があります。なぜなら、彼らの反人民的行動計画表は、今まで以上のものだからです。ですからKKEは、議会と街頭闘争の両方で、資本主義打倒の水路に沿って人民の抵抗と反撃を組織するために、選挙で人民から与えられた権力を利用します。KKE の国会議員は、人民の要求を真に支援します。彼らは、議会においても、またどこでも、人民の利益を擁護し促進する声を強めます。これからも私たちは、私たちが始めたそのやり方を継続していきます。力強い、ダイナミックな方法で。」

2023.05.22

——————————————

〔訳者注〕

(注3)アッティキーは、ギリシャを構成する13の広域自治体(ペリフェリア:περιφέρεια)の一つで、日本語ではアッティカと記述されることが多い。首都アティナ(アテネ)はこの州にある。

https://inter.kke.gr/en/articles/Significant-rise-of-the-KKE-a-hopeful-message-for-the-people/ 

 

付属資料3

KKEのホームページの報道(6月26日)

KKEのさらなる上昇 得票率7.7%にUP

(訳者注:選挙関係の数字は、最終結果でないために後に若干の変更がある)

 2023年6月25日、ギリシャでは不公平な選挙制度のもとで新たな国会議員選挙が行われ、第一党に最大50議席のボーナスが与えられた。国民が直面するジレンマを増大させるこの不公平な選挙法と、多くの労働者が観光シーズンのために投票権を行使する場所から離れているという事情にもかかわらず、KKEは得票率の新たな増加を達成した。とりわけ、7.7%の得票率と40万票以上を獲得し、20人の国会議員を当選させた。

 2019 年から2023年5月までの以前の議会構成では、KKEの議員は15人だったということを思い出すべきである。特に重要なのは、アティナ、ピレス、テッサロキ、その他大都市の労働者階級・人民居住地区におけるKKEのさらなる成長である。

 保守政党の新民主主義党(ND)は40.55%の得票率を獲得したが、社会民主主義政党のSYRIZAは17.84%とさらなる下落を記録し、社会民主主義の古参政党PASOKは11.85%を獲得し、ファシスト『黄金の夜明け』の獄中犯罪者たちの支持を得た極右政党『スパルタ人』の得票率は4.64%で、同じく民族主義政党の『ギリシャの解答』が4.44%を獲得、『キ(勝利)』が3.69%で続いた。『プフシ・エレフテアス(自由の進路)』と呼ばれる元SYRIZA幹部の政党は3.17%を獲得したが、別の元SYRIZA幹部の政党『欧州の現実的不服従運動(MeRA25)』は2.49%で3%の基準を超えなかった。

 2023年6月25日の国会議員選挙の結果は、具体的には次の通りである。

Communist Party of Greece - Further increase of the KKE, which rose to 7.7%

 

付属資料4

トゥリス・クンバスKKE中央
委員会書記長の6月25日の声明

 「私たちは、自らの票でKKEを強化した何千人もの有権者、そして今回の選挙でKKEの強化を目指して一緒に闘った人々に敬意を表します。

 KKEから選出された国会議員たちは、明日には、彼らが約束した場所にいることになります。労働者と人民が直面する諸問題に対する闘いの最前線に、労働者たち、人民諸勢力、若者たちの側にいます。

 KKEへの投票が、状況次第の一時的なものではないことは、今日の結果から明らかです。それは、職場、近隣地域、村、保健、教育、文化の場において、戦闘的な結びつきが存在することを証明しています。これらの絆は強いですし、さらに強化する必要があります。

 私たちは、断固とした姿勢で活動を続けます。人民の闘争の発展と労働運動の高揚のために、議事日程に上っている諸問題をめぐって、この期間を通じてKKEに接近してきたすべての人々と、彼らが今回の選挙でどの党に投票したかに関わらず、議論と共同行動を続けることが決定的に重要です。

 結果に基づけば、私たちの得票率は増加しています。具体的には、数十万票を数えて7.7%を獲得しました。5月の選挙と比較して議員数が減少しているのは、国会の議席を奪う新民主主義党の不公平な法律によるものです。

 全体として、この選挙戦とその結果のプラス要素は、諸勢力間の政治的な否定的相互関係が続いているにもかかわらず、党の選挙における影響力が勢いを増していることです。私たちは、この勢いは選挙での表現よりも広範な影響を持っていて、労働者階級、農民、自営業者、職人、商人、科学者、学生、医師、教師などの労働組合や協会や労働センターの幾十もの選挙における長年に渡る勢力関係の変化によって、それは表現されてきたと確信しています。

 私たちは、アティナ、ピレス、西アッティキーと東アッティキ、テッサロキ、トゥラといった労働者階級・人民居住地区を称賛します。また全国の労働者階級・人民居住地区を。

 私たちは特に、人々が偉大で過酷な階級闘争と政治闘争を繰り広げ、今日一斉にKKEに投票し、時にはイカア島のように党を1位にし、時にはアスプピルゴスのように2位にし、時には国内最大の地域であるアッティキーのように3位にし、スボス島のように5月に失った議席を取り戻しました。そのような地区、町、村を称賛します。

 明日は人々にとって困難なものになるでしょう。KKEは明日から、100%の戦闘員として、労働者階級と人民の野党として、闘いの先頭に立つという公約を実践します。ギリシャ人民は、日和見主義的態度をとったり、猶予期間を与えたりすべきではありません。特に、迷いながら新民主主義党に投票した大部分の人々は。

 明日から労働者階級と人民諸勢力は、新たな展開と諸現実を背景とする攻撃の新ラウンドに直面するでしょう。

  • 復興基金と安定協定の分割払いに関する新しい覚書の諸前提条件の履行。
  • 厳格な財政政策への移行。これは本質的に、投資適格の目標に向けてEUが要求する基礎的財政黒字の名の下での社会的削減と緊縮財政の新ラウンドを意味します。
  • ギリシャの資本主義経済が減速する一方で、新たな金融危機の可能性とその警告信号が、米国とEUにおいて既に見られます。これらの問題は、欧州委員会の春季経済予測とギリシャ銀行の勧告の両方において強調されています。
  • 私たちはまた、ウクライナにおける帝国主義戦争の進展、NATOの諸計画へのより深いギリシャの関与、そしてギリシャ・トルコ関係におけるNATOの傘の下で開始されつつある消極的な和解に注目しています。
  • KKEは議会内でも、議会外でも、あらゆる反人民的法案に対して絶えず闘います。 KKEは、この全般的に否定的な諸勢力間の政治的相互関係に抗する人民の声になります。

 KKEは、絶対多数を手にした『新民主主義』の大躍進、野党の一角である社会民主主義のSYRIZAの著しい衰退、そしてとりわけ新民主主義党の政府が実行する上記の約束に関するSYRIZAとPASOKを含むすべての野党の政治的合意を注視しつつ、客観的に浮上する論争と国内政治の展開を注視し、それに積極的に参加します。これに関連して、今日の選挙結果に基づいて、SYRIZAにおいて、おそらくPASOKにおいても、さらには他の小規模政治諸勢力においても、様々な過程が現れることでしょう。

 議会における極右およびファシスト議員の存在は、間違いなく今回の選挙のもう一つの否定的展開です。ファシズム=ナチズムの根はブルジョア体制とブルジョア国家にあり、その根深さが改めて証明されました。彼らを支援するさまざまなセンターや諸団体があります。結局のところ、この腐敗した搾取制度は、ファシズム=ナチズムを生み出します。

 ファシズム=ナチズムはその性質上、何らかの立法措置によって対処することはできず、実際に危険な道を切り開いていることが確認されています。それは、労働運動・人民運動の仕事です。KKEは、これまでそうしてきたように、今後もこの方向で闘い続けます。

 KKEは、社会民主主義や他のブルジョア政党の行き詰まりを見捨てつつある何千もの労働者や若者と共に、希望を再び活気づけるために闘います。今夜、私たちは彼ら全員に連帯と共同行動を呼びかけます。

 答えは、政権交代に新たな救世主を求めるのではなく、支配的なブルジョア政策に、その階級的性格に、それに奉仕する諸政党と政府に、そして資本の国家に反抗する潮流を、即ち、組織的闘争、運動への参加、集団行動、階級闘争を通じて今日の諸問題の解決を求める潮流を強化することの内にあります。

 

わが人民がもっと微笑み、楽観主義が高まり、希望が復活するように。なぜなら、希望は強いKKEにあるからです!

すべての人々に強さと健康を!

明日、闘いの中で再び会いましょう。

私たちは成功するでしょう!」

6月24日の夜の集会で演説するクツンバス書記長

Communist Party of Greece - Further increase of the KKE, which rose to 7.7% 

 

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