社会主義都市 ニューヨークの誕生

大阪唯物論研究会 会員 倉島伝治

    矢作(ヤハギ) 弘(ヒロシ) 著
    学芸出版社  発行
    2026年1月1日 刊
    187頁
    ¥2,420円

 著者の主張は、本書の「おわりに」で、「日本のメディアは『急進左派市長が当選』と報じたが、『急進』とは言い切れないことは、本書を通読してもらえればわかる。マムダニノミクスは、所詮、ヨーロッパの社会民主主義レベルのリベラルである。マムダニが掲げる政策は、国内の州政府や他の都市政府にも多くの類例を見る。マムダニノミクスはそれを拡張、充実する程度の場合が多い。」と述べていることに尽くされていると思われる。

 本書全体では、マムダニに好意的であり、USAリベラルの実態・実状がリアルに描かれており、興味深い。政治潮流である『米国民主主義的社会主義者[DSA:Democratic Socialists of America]』の影響というよりは、民主党内のニューディーラーの伝統(意識されていないかもしれないが)との関連を重視しているのではないかと思われるが、どうであろうか? 言い方を変えれば、DSA自身が無自覚なニューディーラーの後継者なのかもしれない。

 

 

 

バドゥラ反政府運動とファルグン総選挙 —— ネパール政変が我々に問いかけるもの

大阪唯物論研究会会員 有明次郎

(出処:2025 Nepalese Gen Z protests - Wikipedia)

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〔はじめに〕
 ネパールでは、去る2026年3月5日、二院制である連邦議会(国会)の下院に当たる代議院の総選挙が実施された。西暦2026年3月5日は、ネパール暦(注1)では2082年ファルグン〔第11月〕21日であることから、この選挙はファルグン総選挙とも呼ばれる。
昨年9月(ネパール暦バドゥラ〔第5月〕)に発生した若者たちによる抗議活動(いわゆるGen-Z運動)を引き金として発生したバドゥラ反政府闘争は、KP・シャルマ・オリ政権の崩壊と臨時政府の誕生をもたらした。臨時政府は、事態の収拾を図るとともに、ファルグン総選挙によってこの闘争の最終決着を付けることにしたのである。もっとも、決着が付いたかどうかは早計に判断できない。
 昨年9月の反政府闘争は、2つの点で世界的な注目を集めた。一つは、打倒された政権の首相が、ネパール共産党(統一マルクス・レーニン主義[CPN-UML])の党首であるKP・シャルマ・オリ氏であったためである。もう一つは、政変の導火線の役割を果したのが既成政党ではない若者世代、とりわけGen-Z〔Z世代(注2)〕であったこと、導火線に火を付けたのが政府によるSNS規制であり、そのSNSを駆使した同時多発・分散司令型の抗議行動が展開され(過程進行中に内外政治勢力の組織的介入があったことも見落としてはならないが)、その象徴として『ワンピース』の『海賊旗』が掲げられたためである。
 国際共産主義運動が陥っている混乱の原因を明らかにし、21世紀の社会主義像の輪郭を描こうとしている我々は、このネパール政変に強い衝撃を受けると同時に、政変の原因と結果について検討を続けてきた。しかし入手できる情報が限られていることと我々の力量不足により、この仕事は思うように進捗していない。特に党首のKP・オリ氏が逮捕されたCPN-UMLの公式サイトへのアクセスが不安定になっていること、CPN-UMLに次いで大きな影響力を持つネパール共産党(毛沢東主義センター[CPN-MC])が中心となって昨年11月に結成されたネパール共産党[NCP](9の共産諸党派が参加)の統合過程がまだ完結しておらず、公式Websiteも正常に運用されていないこと、そのためにネパールの共産主義者自身による選挙総括を入手できていないことがネックとなっている。
 しかし総選挙が終わってはや2カ月以上が経過した。時期を失するリスクを回避するために、極めて不十分ながらも選挙結果の紹介と最小限の評価を公表することにした。
 なお本稿の情報源は、主としてWikipedia英語版とAIのCopilotであることを前もって断っておく。

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安重根はなぜ伊藤博文を撃ったのか 革命義士の原像を探る

大阪唯物論研究会 会員 倉島伝治

         斎藤充功(ミチノリ) 著
      論創社 発行
      2026年3月1日 刊
      243頁
      ¥2,640円

 本書は、1994年に時事通信社から「伊藤博文を撃った男」として出版され、1999年に第九章を追加し中公文庫版として出版された作品の増補版である。今回の増補版出版のきっかけとなったのは、「ある日本人記者の法廷スケッチに出会ったことであった。」と著者は言う。

 本書では、安重根[안중근(アンジュングン)]の伊藤博文暗殺(1909[明治42]年10月26日)後、旅順刑務所に収監されてから処刑(1910[明治43]年3月26日)されるまでの144日間の獄中生活を描いている。安は入獄後、自伝「安應七[응칠(ウンチル)]歴史」の執筆を開始し、3月15日に脱稿した。安は続けて「東洋平和論」の執筆にとりかかったが、序文を書き終えただけで10日余り後に刑死した。本書は、この二つの著作の執筆過程を中心に描かれている。

 ところで自伝が「安應七歴史」となっているのは、安が自伝の名前として、正式な名前である諱[イミナ]の「重根」ではなく、普段使う字[アザナ]の「應七」を使ったためである(特別な場合以外には諱は使わない)。

 石川啄木の詩『ココアのひと匙』で語られているテロリストについて、本書はその第六章で、「韓国の文学者が『幸徳秋水』ではなく『安重根』であるとの説を発表している。」と記述している。このテロリストは幸徳秋水を指しているとするのが一般的だ。著者斎藤氏は結論を出してはいないが、「幸徳秋水」に関して言えば冤罪であり、「安重根」とするのが妥当ではないだろうか。

 日本が新しい戦前に回帰しつつある今日、「安應七歴史」によって、安重根の「言葉とおこなひとを分ちがたきただひとつの心」と向き合うことをお勧めする。

なでし子を夜半の嵐にた折られて ――「甘粕事件」記憶の再生 ――

大阪唯物論研究会 会員 倉島伝治

  田中伸尚 著
  影書房 刊行
  2026年3月27日 刊
  307頁
  ¥2,200円

 「あやめの墓がないことを教えられたわたしは、知られざる三人の生の道を『甘粕事件』に即し、時代に沿って尋ねた。」。本書のプロローグで、著者田中伸尚氏はこう語っている。

 “あやめ”とは、1923(大正12)年に起こった『甘粕事件』の被害者の1人である橘宗一[ムネカズ]の母親である。本書は、事件をきっかけとして『主義者』として生きることになった橘あやめの軌跡をたどった作品である。

 103年前の関東大震災の直後、朝鮮半島出身者を中心とする在日アジア人、被差別部落民、社会主義者・共産主義者・無政府主義者などが、大混乱の最中に集団虐殺される事件が関東一円で相次いだ。『甘粕事件』は、そのような諸事件のうちの一つである。

 『甘粕事件』の被害者は、大杉栄・伊藤野枝と大杉栄の甥の橘宗一(6歳)の3名であり、橘あやめは大杉栄の15歳年下の妹である。大杉と伊藤は、事件以前から無政府主義の活動家として警察の監視下にあったが、地震発生半月後の9月16日、都内で憲兵隊特高課に連行され、憲兵隊司令部で憲兵大尉の甘粕正彦らによって虐殺された。その時、大杉・伊藤と一緒にいた6歳の宗一までもが無残に殺害されたのであった。

 本書は、「た折られた」「撫でし子」の母である橘あやめの生きざまを通して、『甘粕事件』とその時代を見つめ直し、読者の目を「治安維持新時代」である今日に向けさせる。

 「犬共ニ虐殺サル」の章は圧巻である。

 橘宗一の父親の橘惣三郎は、『主義者』にはならなかったが、事件4年後に宗一の墓碑を建立し、「犬共ニ虐殺サル」を含む碑文を刻ませた。1927年のこの時代に、この一文が刻まれた墓碑建立を実現させたことは驚嘆に値する。

 「書名」は墓碑の碑文に由来する。

 筆者の主著は「ドキュメント昭和天皇(全8巻)」である。

「済州島四・三事件ハラン」

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

  脚本・監督 ハ・ミョンミ
 2025年 119分 韓国映画

 済州島四・三事件は、1947年3月1日の済州邑で開かれた三・一独立運動記念の集会後に米軍政下の警察が子供を含む6人の島民の命を奪ったことから発した。
 この事件を境に米軍政と島民との対立が激化し、米軍政は、半島部から警察の増援部隊や、ソ連解放下の半島北部からの右翼テロ集団を島に投入して島民を封じ込めようとした。「アカ狩り」に名を借りた過酷な拷問やテロが吹き荒れた。武装蜂起はこうした外部勢力の暴力に対する反撃や自衛であった。
 武装蜂起といっても、その規模は300人余り、銃火器は旧式のものが30挺ほどで、大半は竹槍とか斧・鎌の類にすぎなかった。
 こうした島民の反抗の代償は余りにも大きかった。軍・警による討伐は「焦土化作戦」といわれる凄惨な集団虐殺に発展した。済州島四・三事件の死の淵から生き延びた人びとは、その後の体制への不満や異議は一切口にできず、沈黙を強いられた。四・三についての議論や取り組みが開始されるのは1987年の民主化以後だった。
 「2013年にソウルから済州島に引越して、四・三事件の話を聞くようになりました。実際、四・三事件というと、皆がすごく共感している事件かというとそうではありませんので、私自身がこの歴史的な悲劇に共感して深く理解しようと決めて、その過程が、その結果物が、この物語なのかという気がします。」と、ハ・ミョンミ監督が「制作のきっかけ」として述べているように、韓国でも共感の濃淡の分かれる事件となっている。
 本映画の対象は、今から80年近い前に起こった隣国での出来事であるが、そこにはなお消すことのできない歴史的諸対立の軌跡と、そこで果たした戦前・戦後の日本の役割が焼き付けられている。
 この映画が製作途中にあった2025年12月、尹錫悦大統領(当時)が「非常戒厳令」を宣布し、四・三事件のリアルを改めて浮き彫りにした。済州島四・三事件は、トランプ・高市時代に生きる我々にとってもリアルである。この映画が私たちに問いかけているものを、じっくりと噛みしめたい。
 今一つ、「これまでも映画や小説などで四・三事件が描かれてきましたが、男性目線のものが少なくないと感じていました。」「最も弱い存在だった女性と子どもをメインにした映画を、彼女たちの目線で描きたいという思いが強くあったんです。」(週刊『金曜日』4/3号)と、ハ・ミョンミ監督が語っていることにも留意する必要がある。
 なお、本映画の題名に付けられている「ハラン[한란]」は、漢字表記では漢蘭と記し、漢拏山[한라산/ハルラサン]の蘭[란]を縮約したものである。ちなみに漢拏山は、火山島である済州島にそびえ立つ標高1,947mの済州島の代名詞ともなっている山であり、韓国の最高峰の山でもある。ハ・ミョンミ監督は、「冬に漢拏山で咲く蘭〈ハラン〉のように強い人間の意志と生命力を作品名に込めた」(『十三第7劇場』映画案内)という。

 本映画は、大阪では4月3日から2週間「第七芸術劇場」で公開されているので、ぜひとも観てほしい。

* 朝日新聞(3月26日 朝刊)・エコノミスト(4月7日号)に紹介記事がある。
* 週刊『金曜日』4/3号にハ監督のインタビュー記事がある。

十三第7劇場での上映予定と料金

* 十三第7劇場は予約しないと立ち見となる可能性が大きい。予約は次のサイトから可能。https://nanagei.com/
* 大阪以外での上映予定は、https://hallan-movie.com/ に掲載されている。

《終》



 

 

 

 

 

 

《新刊紹介》ブラッド・コバルト ~ コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで ~

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

  シッダルタ・カラ 著
  夏 目 大 訳
  大和書房 発行
  455頁
  2025年10月20日 刊
  ¥2,750円

 12月20日の朝日新聞の書評欄で取り上げられているので躊躇したが、重要性にかんがみて、紹介することにした。
 コンゴのコバルト鉱山における奴隷労働・児童労働・大量虐殺を暴露・告発するルポルタージュである。

  「我々がどうゆうところで働いているか、わかりましたか」
  「わかったと思います」
  「どういうところですか、言ってみてください」
  「あなたたちの働く環境は劣悪です。そして —————」
  「違います! 我々は墓場で働いているんですよ」

 これは児童労働の母親へのインタビューである。
 コンゴのコバルト鉱山が、大量虐殺の場であることがはっきりとわかる。虐殺の犯人は誰なのか、犯人と名指ししたい者たちはまずコンゴ国内に大勢いる —————
 腐敗した政治家、採掘者を搾取する協同組合、行動のたがが外れた兵士たち、子供たちを脅して利益を貪るボスたち。いずれも犯行に加担していることは間違いない。
 だが彼らは実はもっと規模が大きく、深刻な害悪の一部を成しているにすぎない。規模の大きい深刻な害悪、それはアフリカで猛威を振るうグローバル・エコノミーである。グローバルなサプライチェーンの底辺で、貧しく弱い人たちが食い物にされ、過酷な労働環境で人間としての尊厳を奪われている。世界的な大企業は、表向き、自分たちはサプライチェーンのすべての労働者の権利と尊厳を守ると言っているが、そのような言葉はまったく信用できない。
 著者は、「世界的大企業」の中に中国企業が含まれていることにも触れている。
 どれほど酷い暴力・虐待・拷問を受けようと、私は決して慈悲を乞うようなことをしなかった。私は奴隷状態で生き、神聖な原理を軽んじるよりは、顔を上げて堂々と、揺るぎない信念と祖国の運命に対する最大限の自信を持って死ぬ方を選ぶ。歴史はいずれ真実を語るだろう。植民地主義やその手先を排除した国で教えられる歴史だ。
 アフリカは自らの独自の歴史を綴ることになる。それは栄光と尊厳に満ちた歴史となるだろう。
 今は苦しんでいる祖国だが、自らの独立と自由を守り抜く力があることを私は知っている。コンゴ万歳! アフリカ万歳!
 著者は最後をパトリス・ルムンバの言葉で結んでいる。パトリス・ルムンバは、民族独立闘争を闘い抜き、コンゴ共和国の初代首相となったが、6カ月後35歳で虐殺された。
 「『マイマイ民兵』の『マイ』は水を意味する言葉である。自分たちには、敵の銃弾を水に変える魔法の力があるという信仰に基づく名前だ。」の個所は、ゲバラの「コンゴ戦記」を思い出させる。

《新刊紹介》パレスチナ実験場 世界に輸出されるイスラエルの占領技術

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

  アントニー・ローウェンスティン 著
  河野純治 訳
  岩波書店 刊
  352頁
  2025年12月9日 発行
  ¥3,960円

 イスラエルによるパレスチナ(ガザ・ヨルダン川西岸・東エルサレム)の占領統治が許し難い暴挙であるとの書物は多いが、本書は、パレスチナが、イスラエル軍・産の武器・監視産業複合体による世界市場進出のための「実験場」となっていることを、具体的な事実を積み上げることによって示すことに成功している告発書である。
 章建てを紹介すると、
第1章 欲しがる者には誰であれ武器を売る
第2章 9・11はビジネスにとって好都合だった
第3章 平和の芽を積む
第4章 イスラエル式の占領を世界に売りこむ
第5章 イスラエル式の支配という根強い誘惑
第6章 スマホの中枢に潜むイスラエルの大規模監視
第7章 ソーシャルメディア企業はパレスチナ人を嫌う

 ぜひ一読されることをお勧めする。なお、著者の「ハマース」及び「中国」の評価については、留保がつく。