ブログでの活動再開にあたって

 およそ3年間にわたって、当ブログは休眠状態にありました。時期的にはCOVID-19の蔓延と重なります。そのことも休眠の一要因ではありましたが、主としては執筆陣の個人的事情に依るものです。それらの事情は根本的に解決したわけではありませんが、何とか活動再開に漕ぎつけました。

 その間、ロシアのウクライナへの軍事侵攻という世界を揺るがす『事件』が起き、欧米日の帝国主義諸国が全面的に支持するウクライナと社会主義から帝国主義に変態したロシアとの血みどろの死闘が今日も続いています。その影響は甚大であり、欧州においてはソ連の崩壊以後続いた経済的・政治的枠組みを根底から揺り動かす事態となっています。

 一方アジアにおいても米中の対立が激化し、米国による中国封じ込め政策が、日本や韓国、そしてASEAN諸国を巻き込んで、強引に進められています。『台湾有事』が声高に叫ばれ、日本と韓国では軍備強化が急がれ、日韓対立の『解消』と日韓米軍事同盟の完成が図られつつあります。

 これらの出来事はしばしば、あれこれの国家指導者たちの思考や感情に起因するかのように語られますが、彼らの思考や感情の背後にあって、彼らの思考や感情を呼び起こすものに目を向けない限り、問題解決の糸口すら見出すことができません。それは、経済的諸関係です。唯物論的歴史観(唯物史観)は、社会の上部構造をなす政治やイデオロギーは、経済構造という土台の上に構築されると考えます。ウクライナ戦争も、中国封じ込め戦略も、この原理の正しさを実証していると言えるでしょう。

 ソ連と社会主義世界体制の崩壊によって開始された米国一強支配体制下でのグローバルな(全世界的規模の)帝国主義搾取体制が、その後の30年間の発展過程で育んできた内部矛盾が、ついに爆発しつつあるというのが現在の世界の姿です。

 欧州では、資本主義市場に開放された東欧にドイツ資本を先頭としたEU資本が雪崩れ込み、当地の人民を搾取しただけでなく、軍事的にもNATOの東方拡大が図られ、帝国主義に変態したロシアを経済的・軍事的に圧迫し続けました。そして欧米帝国主義が、経済的・文化的・歴史的に一体性の強いウクライナ、ロシア、ベラルーシ3国の1つであるウクライナまでNATOに引っ張り込む『暴挙』に出たことが、帝国主義ロシアの堪忍袋の緒を切ったというわけです。

 米中関係もまた然りです。米国は、社会主義ソ連に敵対するものとして中華人民共和国を承認し、台湾の国連からの追放さえ断行したのでした。また絶好の投資先(搾取対象)として、安価なサプライヤーとして、鄧小平氏が開始した改革・開放路線(市場経済化)の中国を支援してきました。ところがその中国が急速に経済大国化し、経済的に手ごわい競争相手になっただけでなく、その経済力に見合った政治的・軍事的影響力を世界的規模で(グローバルに)発揮するに至りました。それとは対照的に米国の経済的ポテンシャルは相対的に低下し続け、それに見合ってその政治的・軍事的影響力も傾向的に低下してきました。世界の覇者としての米国の地位を中国が脅かし始めたために米国の対中国政策が変わったのです。「自由民主主義的価値観を共有できない中国とは全面的に対決する以外にない」などというお題目は、子ども騙し以外の何物でもありません。改革・開放政策を打ち出してからの中国の内外政策は、基本的には変わっていません。変わったのは米国の政策です。その理由は、「米国の世界覇権を脅かす者は絶対に許さない」という極めて単純な、物欲的なものです。

 そしてグローバル・サウスがその影響力を発揮し始めました。東西冷戦構造が崩壊し、『資本(搾取)の原理』が全世界的に誰憚ることなく猛威を振るった結果として、いわゆる南北問題が一層深刻化してきました。先進資本主義諸国(北)と大多数の発展途上諸国(南)との格差は広がる一方でした。当然のこととして、グローバル・サウスは、米国や旧来の帝国主義列強の世界支配に対して異議申し立てを行っています。国連における一方的なロシア批判決議に棄権したり、中国包囲網には加わらず、むしろ中国との結び付きを強めたりしています。

 また発展途上諸国の中からは、急速に資本主義的発展を遂げつつある新興諸国家群が登場し、それはそれで米国を先頭とする旧来の帝国主義列強と利害関係が複雑に交錯しており、彼らはグルーバル・サウスの『代表』であるかのように振る舞いながら、米・露中対立の中で第3極的な役割を果たしつつあります。

 人類は、その刻んできた自分史の中で、今、新しいページを開きつつあります。ウイウライナ戦争や『台湾有事』という名の対中国戦争の挑発的諸行動は、人類滅亡に直結する第3次世界大戦に発展する危険性を内包しており、人類は存亡の危機に直面していると言っても過言ではありません。

 人類滅亡の危機は、他の側面からも迫っています。『環境危機』がそれです。人類が作り出したとてつもない『生産力』は、地球という有限の自然に不可逆的変化を引き起しつつあります。『環境危機』の一つである気候危機は、年々その深刻度を増しつつあり、激しい旱魃と続発する山林火災、集中豪雨と洪水、夏の熱波と巨大台風、海面上昇による島嶼諸国の水没等々。諸化学物質による地上と海洋の汚染や放射性廃棄物・原発事故による汚染も、子々孫々に至る有害な作用を及ぼし続けます。これらに対して全世界的規制を掛けなければなりません。ところが、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)だけを見ても、各国間の利害関係の調整が付かず、具体的取組みはあまりにも遅々としています。資本主義市場経済の法則を強力に規制しない限り、この問題を克服することは困難だと断言できます。

 資本主義市場経済の法則を強力に規制するためには、資本主義制度から社会主義制度に移る以外にないというのがマルクス・レーニン主義の理論的帰結です。しかし資本主義列強の中で、近い将来に社会主義革命が展望される国は見当たらないのが現実です。そのことをもって、マルクス・レーニン主義の学説は単なるユートピア論に過ぎないという結論を導きだす人々が大勢います。しかし私たちは、このブログを開設したときにマルクスの言葉を借りて次のように述べました。社会主義革命は、「たえず自分自身を批判し、進みながらもたえず立ち止まり、すでになしとげられたと思えたものにたちもどってっては、もう一度新しいくやりなおし、自分がはじめにやった試みの中途半端な点、弱い点、けちくさい点を、情け容赦もなく、徹底的に嘲笑する。」「この革命は、自分の立てた目的が茫爆として巨大なことに驚いて、たえずくりかえし尻込みするが、ついに絶対にあともどりできない情勢がつくりだされ、諸関係自身がこう叫ぶようになる。ここがロドス島だ。ここで跳べ!」。

 異常に危険で困難な国際情勢の中で、昨年10月末にキューバの首都ハバナで、第22回共産党・労働者党の国際会議が開かれました。共産主義者はもとより、ウクライナ戦争の早期終結を願う人々は、この会議が如何なる合意文書を発表するか、期待と不安を持って見守りましたが、会議はウクライナ戦争について、国際共産主義運動の内部に鋭い意見の対立があることを公然化させました。ロシア共産党を中心とするグループは、「ロシアのウウライナへの軍事侵攻は、ロシアの自衛権の行使であり、ウクライナをナチスの支配から解放するための正義の戦争である」と主張し、ギリシャ共産党を中心とするグループは、これは帝国主義間戦争であり、いずれの側をも支持すべきではなく、帝国主義戦争を内乱に転化し、社会主義革命を目指すべきだ」と主張し、半数近くの党はそのいずれにも賛同せず、結局最大公約数的な決議を採択することになりました。ウクライナ戦争のような決定的に重要な事柄について、まったく正反対の2つの見解が出され、それぞれ4分の1程度の支持しか得られなかったことは、国際共産主義運動の混乱を改めて表出する結果となりました。

 国際共産主義運動は、ソ連と社会主義世界体制の崩壊以降、大きな困難と理論的混乱に陥っており、特に先進資本主義諸国においてその影響力を顕著に低下させてきました。このことが、先に述べた「資本主義列強の中で、近い将来に社会主義革命が展望される国は見当たらない」ことの主要な原因の一つとなっています。

 この困難からの脱出は、理論的混乱を克服すること抜きには不可能であり、社会民主主義と明確に異なる社会主義への道を示すことが喫緊の課題であると確信しています。そしてこのブログを立ち上げたときの初心を貫徹するために、ブログにおける活動を再開することにしました。

   2023年5月5日(マルクス生誕205周年の日に)