《新刊紹介》『未明の砦』

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

『未明の砦』
太田 愛  角川書店  609頁
2023年7月31日 刊行  ¥2860
1月26日、第26回大藪春彦賞受賞作品。
 
 少し古くなるが、ぜひ勧めたい書の1冊である。陸奥新報など11の地方紙に2021年4月から2023年6月に掲載された。
 
 グローバル自動車企業(作品の「ユシマ」で想定されているのは「トヨタ」)のとある工場での1人の本工の過労死をきっかけに、4人の非正規労働者が、ユニオンの助けを借りて組合を結成し、本工を含むストライキを実現するまでを描いている。
 
その中で
  • グローバル企業と政権との関係
  • 政権と警察との関係
  • 警察の組合つぶしの手段としての「共謀罪」
  • 本工と非正規労働者との関係
  • 本工・非正規労働者を問わない過酷な労働条件と過労死
  • 本工の人事・労務管理・賃金制度
  • 非正規労働者に対する「5年ルール」の骨抜き適用
等々の問題が盛り込まれている。
 
 最終的に本工まで含むストライキ突入まで進むのは現実ばなれしていると思うが、作者の非正規労働者に対する応援歌として受け取るならば、それもありかといえる。
 
 作品には四人を取り巻く大勢の人が登場するが、警察や企業経営者側の内部にそれぞれの方針に疑問・違和感を抱く人物が存在することまでは想定できなくはないが、具体的な行動まで進むことが描かれているが、現実にはありえない。
 
 作品を離れて現実の「トヨタ」関連では、
  • UAWのストライキの結果として、組合の無い米国トヨタ工場で9%の賃上げ。
  • 2月1日から国内の完成車工場の稼働時間の上限を30分短縮を公表。従業員の負担を減らす狙いがあるとしており,グループ内(ダイハツ工業・豊田自動織機)で相次いだ認証不正も背景にあると見られる。豊田章男会長は、「会社を作り直すぐらいの覚悟」でグループ全体の変革に乗り出す考えを示していた。(2月3日 朝日新聞・朝刊)
があり、本工組合より経営者サイドが危機感を持っているが、これが最大限の変革か。社長ではなくて会長がコメントしていることを見ても、基本的には何も変わっていない。
 
 警察の組合つぶし関連では、
  • 大津地裁判決 関西生コン支部7人に無罪 ビラ配布共謀認めず。恐喝未遂や威力業務妨害の罪に問われた関西生コン支部組合員2人を有罪とし、ビラ配りをした7人に「共謀は認められない」として無罪を言い渡した。(2月7日 朝日新聞・朝刊)
 「共謀」が認められなかったことに重点のある報道であるが、正当な組合活動に「恐喝未遂」や「威力業務妨害」が適用され有罪となった事の方がより重要である。
 
 最後に、作品巻末の参考文献は量も豊富で重要。