広島を辱め、失敗に終わった「G7広島サミット」

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白日の下にさらされた西側帝国主義の歴史的凋落
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                              大阪唯物論研究会会員 岩 本  勲

 G7サミットは、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」と銘打ちながら、その中身は核軍縮なく「核抑止論」とG7側の核武装を正当化し、ウクライナ戦争の停戦・和平ではなく拡大と長期化を目指し、中国との和解ではなく緊張を煽り、気候問題では石炭火力発電廃止の時期を明示せず、逆に原発の全面的推進を掲げた。一方、対中国政策ではアメリカとフランス・ドイツとの間で明確な差異が明らかとなり、グローバルサウスの取り込み政策にも失敗した。
 G7に対抗して開催されたのが、中国・中央アジアサミットやBRICS5カ国の外相会議とBRICS友好国15カ国外相を招いた合同会議であった。さらに南米では、ブラジルのルラ左派社民新政権による南米11カ国首脳会議も行われた。
 いまや、BRICSのGDPはG7の6割弱(2022年)に迫り、G7の歴史的凋落はよほどの偏見をもつ者以外の目には、もはや明らかである。広島G7サミットは、G7が世界を全一支配した一時代(ソ連の崩壊からの30数年)が終わったことを示すと同時に、それに抗い「戦争と核使用」を挑発するG7の醜悪な姿を浮き彫りにした。

(Ⅰ)失敗に終わったG7広島サミット
核保有を正当化して広島の名を辱めたサミット
 G7広島サミットが5月19~21日、開催された。だが、サミットは広島の名を根底から辱めるものとなった。「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が、ロシアの核威嚇、「北朝鮮」の核実験、イランの核開発、中国の核兵器開発に関する情報の不透明性等の非難を行いながら、同時に「核抑止論」の見地から自らの核保有を正当化しているからだ。G7は「核兵器禁止条約」には反対の立場から、片言隻句もこれに言及せず、「核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のための役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている」と明言したのだ。
 核兵器を真っ先に開発し、現実に原爆を投下した唯一の国であり、広島・長崎の住民の夥しい人命を奪ったのは一体どこの国であったのか、外ならぬアメリカ帝国主義である。だが、この国は現在に至っても一言の謝罪も行ったこともなく、この国は依然としてロシアと並んで世界最大の核大国である。バイデン大統領は原爆資料館訪問の際、「核のない日に進もう」と記帳した旨が報道されているが(「日本経済新聞」5/21)、「言や良し」、だが彼の現実の核政策は全く正反対といってよい。
 これに対して、長年にわたって核兵器反対に携わってきた人々の批判は厳しい。「一貫して核と戦争を否定してきた広島が、その舞台として利用された。議長国・日本の岸田首相は罪深い」と元広島市長・平岡敬氏は怒りを隠さない(「毎日新聞」5/22)。「これだけしか書けないのか。死者にたいする侮辱だ。(「広島ビジョン」が核兵器禁止条約についても一言もふれなかったことに対して)サミットは大変な失敗でした。(ウクライナ情勢をめぐっては)戦争を続ける準備の話ばかり聞かされている。うれしくありません」(長年にわたって核禁止運動に取り組んできた被爆者のサーロー節子氏、同上)。
また、ジョコ・ウイドット・インドネシア大統領は訪日の直前、核廃絶をG7に求めたいと語っていたが(「朝日新聞」5/20)、G7はその期待をも真っ向から裏切ったのである。

ウクライナ戦争の長期化と拡大への支援
 岸田首相と多くのマスコミは、飛び入りのゼレンスキー大統領を迎えて、ウクライナ軍事支援の世論を煽り、G7は「必要とされる限りの支援行うこと」を改めて確認した。G7は和平ではなく戦争の長期化とロシアへの厳しい輸出規制の強化を目指したのである。
 バイデン大統領は、ゼレンスキー大統領へのお土産として、ヨーロッパ諸国が有するF16戦闘機のウクライナへの供与を最終的に許可した。ウクライナはこれまで、ロシアの最新戦闘機に対抗しうるF16の導入を切望してやまなかったのである。
 同時に、岸田首相は100台規模の軍用車両と糧食3万食のウクライナへの提供を決定した。政府は、これらが「殺傷・破壊兵器」ではないという理由で自衛隊法(第116条3)に違反しないとしている。だが、戦争は殺傷・破壊兵器と補給の二本立てで成立するものであり、車両・食料補給は紛れもない戦争支援に他ならない。憲法第9条を踏みにじるものである。

中国への軍事的威嚇
 G7は中国に対して様々な注文を付け、とくに「東シナ海及び南シナ海における状況について深刻に懸念している」「国際社会の安全と繁栄にとって不可欠な台湾海峡の平和と安全の重要性を再確認する」を表明したが、その真の意味は、G7による中国への軍事的な威嚇に他ならない。一方でG7が両岸間の平和を唱えているが、それは自らの対中敵対の意図を隠すためのカムフラージュともいえる。またそれは、中国との経済関係の維持に重大な利益を有する独・仏・伊帝国主義と、中国のこれ以上の台頭を“絶対”阻止したい米・英帝国主義とそれに追随する日・加帝国主義の対立を反映したものでもあった。
 G7は中国政府の人権抑圧を批判している。だが、入国管理局における外国人に対する虐待や極端な人権侵害法である入管法改定を強行し、また韓国人・朝鮮人にたいするヘイトクライムを事実上は野放しにしている日本政府、アフリカ系やアジア系住民やヒスパニック等に対する暴力的抑圧を日々繰り返しているアメリカ、これらの国々の政府に、他国政府の人権侵害批判を行う資格などは一切ない。もとより、中国政府はこれらのG7の対中批判に対しては、内政干渉だと強く抗議している。
 G7は対中経済関係について、「デカップリングまたは内向きにならない、経済の強靭性についてはデリスキング及び多様化が必要」と述べた。中国との本格的なデカップリング=経済分断ではなくデリスキング=リスク低減をということだ、と。だが、言葉を変えても本質的には何の変りもない。日米仏独のいずれの国家をとっても中国貿易の本格的な遮断はありえないにも拘わらず、但し半導体などの重要物資では中国に依存しない、というのは実に「虫のいい話」だ。例えば、日本の最大の貿易国は中国に他ならない。対中貿易額は2020年以来、貿易総額の1位を占め、2022年は3333億5400万ドル(約45兆円)で貿易総額の20.3%で、第2位が対米貿易の13.8%である。対中投資についても2020年で3万社が中国に進出した。
 また、アメリカの昨年の対中貿易総額は6900億ドル(約95兆円)で過去最高を記録した。中国側からみれば、最大の輸出先の第1位がアメリカで総輸出額の19%を占めた。後述の中国とフランス・ドイツ両国との経済関係の拡大をみても、デリスキングなどは身勝手な言い分にしか過ぎない。

原子力エネルギーの積極的、全面的な推進
 「首脳声明」は天然ガスを含む化石燃料の段階的廃止には合意したが、石炭火力発電廃止の時期については、発電の3割を石炭火力発電に依存する日本が強く反対し、明示されなかった。岸田政府が最も悪い役割を果たしたのである。
 同時に、G7は世界のエネルギー安全保障のためとして、原子力エネルギーの積極的、全面的な活用を確認した。「世界のエネルギー安全保障を確保する原子力エネルギーの潜在性を認識する。・・・安全な長期的運転を推進する・・・小型モジュール炉及びその他革新炉の開発及び建設および支援、核燃料を含む強固で強靭な原子力サプライチェーン構築並びに原子力技術及び人材の維持・強化にコミットする。・・・我々は、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業の着実な進展と共に、科学的根拠に基づき国際原子力機関(IAEA)とともに行われている日本の透明性のある取り組みを歓迎する。・・・多核種除去システム(ALPS)処理水の放出がIAEA基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」。もはや、この見解に改めて注釈を加える必要はなかろう。G7は今や、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島の惨劇をすべて忘れ去り、闇に葬っているのである。

グローバルサウス取り込み策の失敗
 G7は今回、インド、インドネシア、クック諸島、コモロ、ブラジル、ベトナムなどグローバルサウスの代表的国々及びオーストラリア、韓国の首脳を招いた。日本は今回、グローバルサウス取り込み策の一環として、途上国向けの国際協力機構(JICA)を通じて40億ドル規模の融資枠を設ける方針を示した。昨年のドイツ・サミットは、グローバル・インフラ投資パートナーシップを発足させ、各国が2027年までに最大6000億ドルの投融資を目指すことを決めており、日本は5年間で650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員を表明していた。
 だが、G7はグローバルサウス首脳の意見を「首脳会議」の結論に反映させるというのではない。それは、グローバルサウスの代表諸国を招いてG7との連携を誇示するポーズを示したに過ぎず、その中身は単に彼らの意見を聞きおく、ということに止めたのである。もとより、グローバルサウスの首脳も誰一人として、ウクライナ問題について、その中立的姿勢をくずさなかった。
 それと同時に、G7広島サミットに招待されてそれに応じたグローバルサウスの国々は、決して反米・反G7でないことを行動でもって示したとも言える。

心ここになかったバイデン大統領
 バイデン大統領は、実はG7会議には「うわの空」で臨んでいた。アメリカ国内では「債務上限問題」で共和党との妥協が難航に難航を重ねており、妥協が成立しない場合は、アメリカ政府のデフォルトを免れかねないからであった。しかも、それは世界経済の混乱要因にもなるのである。
バイデン大統領はアメリカ国内の対共和党交渉チームとの連絡を優先して、首脳会談2日目のグローバルサウス諸国との関係強化を議論するセッションにも欠席していた。このセッションは対中・露問題と並べて、今回の首脳会談の重要な課題の一つを討議する機会であったにも拘わらず、である。さらに、オーストラリアで開催予定のQUAD首脳会議の日程を変更し広島で開催した。米大統領がはじめてパプアニューギニアを訪れ、そこで同国との「防衛協力協定」調印に臨むという前宣伝にも拘わらず、同国訪問もキャンセルし、ブリンケン国務長官が代理出席した。

対中政策を巡るアメリカとフランス・ドイツとの溝
 さらに、中国を巡っては、アメリカとフランス・ドイツとの対応は明らかに異なっている。中国は昨年11月、フランス、ドイツ、EUの首脳たちの訪中を受け入れ、今年に入って中国の秦剛(チンカン)外相がフランス、ドイツを歴訪した。
 マクロン大統領はフランス大手企業の代表50余人を引き連れて4月に訪中した。習近平(シー・ジンピン)国家主席は、食事を共にするなどマクロン大統領を歓待し、「濃密かつ率直」な意見交換を行なった。マクロン大統領は台湾情勢について、「欧州は対立する米中両国のどちらにも追従すべきでない」と述べ(「日本経済新聞」4/9電子版)、この問題でのアメリカとの距離を明らかにした。
経済関係では、大統領と国家主席との立ち合いの下で、経済協力協定を結び、航空宇宙・原子力発電の分野での協力、カーボンニュートラルの拠点の共同建設、海上風力発電の分野での協力、等を行うこととした。この他、ルノーと浙江省吉利控股集団との合弁会社設立なども合意した。当面、中国はフランスからの航空機160機の輸入や豚肉など農産物の輸入拡大に合意した。既に2019年には、習主席がフランスを訪れ、エアバス300機を含む総額400億ユーロ(約6兆円)相当のビジネス契約が結ばれていたのである。
 なお、マクロン大統領は帰途、「上海協力機構」のオブザーバー国のモンゴルに立ち寄り、フレルスフ大統領と会談し、10月の訪仏を要請した。同国とはウラン採掘プロジェクトの実施について、今秋の調印を目指している。周知の通り、フランスは原子力発電の大国でロシアから濃縮ウランを輸入する他、カザフスタンやウズベキスタンの天然ウランはロシア経由で輸送されているのである。
 ドイツの貿易相手国としての中国は、2022年度までで連続7年間、首位を占めた(ドイツ連邦統計庁)。2022年度の両国間の財に関する貿易額は前年度比約21%増の2980億ユーロ(約3200億ドル)で過去最高となった(「ロイター」2/8)。「大きな問題は、ドイツがクリーン・エネルギーによる輸送への移行に必要な重要な原材料の調達で中国に依存していることだ」(ドイツ経済研究所)。ドイツはバッテリーや半導体、電気自動車(EV)の磁石に欠かせないレアアースの約3分の2を中国から輸入しているのである。EU全体では、イオン電池に欠かせないリチューム97%を中国からの輸入に依存している。

 

(Ⅱ)白日の下にさらされた
   西側帝国主義の歴史的凋落

西側帝国主義の経済的・政治的凋落
 G7に代表されるアメリカ帝国主義など西側帝国主義は、ソ連と社会主義体制の崩壊(1991年)後、社会主義に“勝利”し、世界の政治経済を全面的に領導するかに見えた。だが今日、G7は最早そのような力を失い、世界史的な意味で、その政治的・経済的な全一支配が終わったことを白日の下に晒らすこととなった。
 歴史を振り返れば、G7は1975年、西側帝国主義5カ国首脳(米・英・仏・西独・日+EU)がランブイエ(フランス)に会し、1973年オイルショックを引き金とする世界恐慌にいかに対処すべきかを協議する場として誕生した(G5)。その後、イタリア・カナダが加盟し(G7)、さらに石油・ガス「オリガルヒ」が支配する帝国主義の道へ急速に走りだしたロシアも1998年にこれに参加し、G7はG8となった。だが、ロシアは2014年のクリミア半島占領のために除名された。
 1980年代のG7のGDPは世界の61%で1980~90年代にかけては一時、7割近くなった。しかし、中国のGDPが世界第2位になった2010年にはG7のそれは5割台を切った。IMFの見通しによれば、G7のGDPの比率は2028年には41%にまで低下するとのことだ。
 2008年のリーマンショック後には、世界経済の立て直しにはG7だけでは果たし得なくなった。そのため、世界経済に急速に重みを増してきた中国を含むBRICSや新興諸国との提携が不可欠となり、2008年にはG20(G7・EU・中国・アルゼンチン・オーストラリア・ブラジル・インド・インドネシア・メキシコ・韓国・ロシア・サウジアラビア・南アフリカ・トルコ)が発足した。
 ドル基軸通貨制度も揺らぎ始めている。国際送金システムであるSwiftにおける交換通貨は2023年4月時点で、ドル42.7%、ユーロ31.74%、ポンド6.58%、円3.51%である。一方、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁措置としてロシアのSwift使用が禁止されたため、ロシアの貿易決済の一部は中国人民銀行が導入した人民元建ての国際銀行間決済システム(CIPS)へ緊急避難的に移行した。なお、CIPSについては中国政府の規制が厳しいので、CIPSはSwiftにとって代わることはできないとの見解もある(「ドル基軸通貨の行方」㊤、「日本経済新聞」5/22、参照)。もとより、CIPSは一挙にSwiftに代わることはできないが、ドル基軸通貨制度が今まで通りに安泰であるとは全く言い難い(「ドル基軸通貨体制の行方」㊦、「日本経済新聞」5/23、参照)。
 第二次世界大戦後、ドルが世界通貨として覇権を得るにいたったのは、日・欧帝国主義が戦争によって極度に疲弊する中での、アメリカの卓越した生産力と比類なき軍事力がその背景にあった事はいうまでもない。加えて、アメリカが、サウジアラビアとの軍事・経済協力の2国間協定締結の見返りとして、1973年の石油危機の際、サウジが原油をすべてドル建て(ペテロダラー)で輸出することが両国間で明文化されたことが重要であった。米国のイラクへの軍事侵攻とフセイン政権の転覆は、フセインが石油の輸出をドル建以外で行おうとしたことが真のトリガー(引き金)となったことは、もはや秘密ではない。「以来、石油通貨取引はドルに一元化されてきたが、時代は変わった。2023年は、この壮大な構図に変化が起き始めた年として記憶されるかも知れない」(FINACIAL TIMES、「日本経済新聞」1/6、電子版)。
 中国は2022年、産油諸国に対して人民元建ての原油取引を公式に要請し(ペテロ人民元〔ユアン〕)、既にロシア、イラン、イラク、ベネズエラ、アンゴラ、インドネシアが人民元建て取引を実施し、中国とサウジアラビアは人民元建ての石油取引の協議をはじめた。いうまでもなく、これは、ドルの世界通貨としての地位を根底から揺るがしかねない事実である。
 実際、現状を見れば、世界全体の通貨のなかで米ドルが占める割合は58.36%(2022年12月末)となり、1999年以降で過去最低を記録した(IMF報告)。
 貿易に関してみれば、G7の対露輸出は(2021~22年)、対露制裁措置によって平均して半減したのに対して、中国、インド、トルコ、旧ソ連圏の国々(ウクライナを除く)が対露貿易を拡大しており、旧ソ連圏の輸出額も昨年には1.4倍となった。同時に、ロシアの輸出額も侵攻前の2022年1月~23年1月の間に石炭の輸出額は約2倍、ロシア産化石燃料(石炭・石油・天然ガス)では対エジプトが9.6倍、対インドが8倍、対ナイジェリアは5.2倍となった(「日本経済新聞」5/22、参照)。
 国際政治では、今年2月の国連総会緊急特別会合において、ロシアの戦争犯罪に関する調査と訴追の必要性を初
めて明記した決議は、国連加盟193カ国の内、賛成は141カ国(73%)の賛成を得たが、しかし、32カ国が棄権、7カ国が反対した。棄権・反対票の大半を占めたのがグローバルサウスと称される諸国であった。ここでも、G7に代表される西側帝国主義の国際的な政治的後退が如実に示されたのである。
 軍事面でも大きな変化が生じていた。G7の軍事費は冷戦終結後の1995年には世界67.42%であったのが、2022年には51.84%に低下した。現在、1位から4位までのアメリカ、中国、ロシア、インドの軍事費の世界シェアーの変化を見れば次の通りである。アメリカ40.76%→39.15%、中国1.71%→13.03%、ロシア1.76%→3.86%、インド1.34%→3.63%となっている(SIPRI統計2023年版を元に第一生命経済研究所作成)。

第1回中国・中央アジアサミット
 このような西側帝国主義の政治的・経済的な大幅後退に代わって、周知のとおり中国の政治的・経済的力量が急速に増大した。中国は今回の広島G7サミットに対抗し、中国が主導する中央アジア5カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)との首脳会談「第1回中国・中央アジアサミット」を5月18日、陜西省西安で開催した。これら5カ国は旧ソビエト社会主義共和国連邦の一部であり、ロシアのいわばテリトリーであった。中国はソ連崩壊後の1992年にこれら5カ国と国交を樹立し、いわばロシアの勢力圏である筈のこれらの国々を取り込み、最初の首脳会議を行ったのである。なお、これら5カ国は、ロシアのウクライナ侵攻には距離を置き、2月の国連決議には反対せず棄権もしくは意見表明せずであった。
 これら諸国は中国にとって様々な意味で重要国である。すでに中国とこれら5カ国との貿易額は昨年で過去最高の約9兆7000億円にのぼっている。今回の会議では、経済・エネルギー問題や地域平和維持問題、等々で54項目にわたる成果リストが合意された。今後、2年ごとの議長持ち回り、閣僚会議の定期的開催、常設事務局の設置の等の検討も合意された。中国はこの5カ国に260億元(約5100億円)の援助を行なうことを表明した。
 この地域は、資源面では天然ガス、石油、ウランの供給地である。さらに重要なことは、西安がかつてのシルクロードの起点であり、今日では「一帯一路」の要衝であることだ。「一帯」は中国から中央アジアを経て陸路ヨーロッパに行く経路であり、中国とヨーロッパを結ぶ国際貨物列車は年間1万6000便を突破するなど物流の大動脈である。さらにカスピ海上横断輸送ルートでの複合輸送の促進や中央アジアの鉄道輸送・高速道路網の推進等が合意された。
 中国は既に「上海協力機構」(SCO、Shanghai Cooperation Organization、加盟国:中国・インド・カザフスタン・キルギス・パキスタン・ロシア・タジキスタン、ウズベキスタン)を結成しており、オブザーバー国として、アフガニスタン、ベラルーシー、イラン、モンゴルがあり、「対話パートナー」として、アゼルバイジャン、アルメニア、カンボジア、ネパール、トルコ、スリランカ等がある(「日本経済新聞」2022/9/16)。なお、SCOのGDPは世界の2割台である。

 もう一つ確認しておくべきことは、ここ20年間における中露の経済関係の変化である。1991年の中国の名目GDP(4,134億USドル)は、同年のロシアのそれ(5,638億USドル)の約7割であったが、2021年の中国のそれ(17兆7,341億USドル)は、同年のロシアのそれ(1兆7,778億USドル)の10倍になっている。経済力が逆転しただけでなく、圧倒的な格差が生じた。その結果として、ロシアの中国への経済的従属関係が生まれており、中央アジア諸国の中国への傾斜は、このことの必然的結果でもあった。

太平洋島嶼をめぐる米中印の三つ巴の闘争
 インドのモディ首相は5月22日、故国への帰途、パプアニューギニアで8年ぶりの「太平洋島嶼首脳会談」を開き、ここでもグローバルサウスの盟主としての立場を打ち出した。モディ首相は14カ国首脳に対して、気候変動や食糧安全保障、デジタル技術の支援を提案した。現職のインド首相がパプアを訪れるのは初めてであった。マラベ・パプア首相は、「我々は大国同士の勢力争いに苦しんでいる」と強調し、モディ首相に「我々の擁護者となってほしい」と求め、気候変動対策やエネルギー高騰などによる財政難への継続支援を訴えた。「太平洋島嶼首脳会談」は2014年に発足し、翌年も開催されたがその後は中断していた(「日本経済新聞」5/23、参照)。
 なお、パプアニューギニアは、中国の主張する「第2列島線」上に位置し、中国が経済援助を軸に関与を強めており、米中の相剋の焦点の国の一つでもある。同国とアメリカとの「防衛協力協定」では、アメリカ海軍が同国の空港や港湾にアクセスすることができることとなった。アメリカは1240万ドル(約17億円)の軍装備支援や1250万ドルの気候変動対策支援も約束した。この他、アメリカはパラオ、ミクロネシア連邦とも新たな経済支援に合意し、これを軍事協力の維持に繋げ、さらにマーシャル諸島とも経済援助の協力の詰めを急いだ。
 また、ブリンケン米国務長官はバイデン大統領の代理として「太平洋島嶼首脳会議」に出席すると同時に、今秋にバイデン大統領が出席する「太平洋島嶼首脳会議」をワシントンで開催する意向を正式に伝えた。

BRICSの拡大構想

 近年、政治経済的に急速に台頭してきたのがBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)5カ国である。最初は南アフリカを除く4カ国(BRICs)が2009年から毎年首脳会談を開いていたが、2011年には南アフリカが参加し、BRICS5カ国となった。 
 BRICSは世界の人口の約40%を占め、国土面積では世界の約3割、GDPでは世界の約27%を占める(2022年)。これをG7との比較でみれば、G7のGDPは約43兆7800億ドル、BRICSは約26兆320億ドルで、G7の約59%である(IMF統計に基づき筆者が計算)。

 しかも、米ゴールドマン・サックスの予測では約四半世紀後には、GDPの世界一は中国でアメリカは2位に転落し、3位はインドが占めることとなる。しかも、BRICSには属さないがグローバルサウスの一員であるインドネシアが4位に浮上し、G7はアメリカを除き5位以下として大きく後退することとなる。もし、このような事態が事実となれば、G7はGDPでBRICSの後塵を拝し、国際政治経済的に大きく後退せざるを得ない事にもなるだろう。もとより、この予測通りとなるか否かは断言できないし、ブルジョア統計であるGDP値が生産力の真の値を示しているわけではないが、ひとつの有力な見解でもある。

 BRICSの外相会議が南アフリカのケープタウンで
開かれ、6月1日の5カ国外相会議に続いて翌2日にはBRICS友好国の15カ国の外相を招いて外相会議が行われて、加盟国の拡大などが協議された。
 「毎日新聞」(6/1)の報道では、次のような国々が新規加盟国として予測されている。中東・北アフリカ(イラン、サウジアラビア、UEA、エジプト、アルジェリア、トルコ、バーレン)、アフリカ(ナイジェリア、セネガル)、中南米(アルゼンチン、メキシコ、ニカラグア)、アジア(インドネシア、タイ、カザフスタン、バングラデシュ)。これらの国々中にはサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ナイジェリア等の産油国が名も連ね、拡大BRICSとなれば、世界の石油・ガス産出の過半数を押さえることとなる。さらに、BRICSは、IMFなどの融資条件が厳しいので、それに対抗して2015年に「新開発銀行(NDB)」(本部は上海)を設立し、既に新興・途上諸国向けに96プロジェクト、320億ドル(約4兆5000億円)の融資が行われている。一方、インドは自国の主導権の後退を恐れてのことか、急速なBRICSメンバー拡大には消極的と報道されている。結局、拡大案は結論には至らず、8月の首脳会議に結論が持ち越されることとなった。

左派社民主義者ルラ・ブラジル大統領の復活
(1)親中路線への傾斜
 BRICSの中でも、中国、インドの次に大きな生産力を占めるのがブラジルである。この国では、ネオファシストであるボルソナロ大統領に代わって、左派社民主義者のルラ大統領が今年1月から政権の座に就き、経済的・政治的活動の活発化を目指している(ルラ政権の性格については別途扱う予定である)。
 ブラジルの輸出全体に占める対中輸出の割合は2003年で6.2%であったが、2022年には26.8%と飛躍した。但し、第2の貿易相手国はアメリカでもあり、アメリカはブラジルを一方的に中露陣営に追いやらないため、アマゾン保護の目的で「アマゾン基金」5億ドル(約700億円)を拠出すると表明している。
 ルラ大統領はまずは今年4月に訪中し、中国との関係改善を図り、貿易・投資やデジタル、科学技術を含む15分野の2国間協力の文書に調印した。ブラジル財務省はこれらの協力文書に基づく投資額を500億レアル(1兆3500億円)と推計している。
 ルラ大統領はウクライナ問題でも西側帝国主義に同調せず、「米国やウクライナが戦争を望んでいる」として、ロシアに対する経済制裁やウクライナへの武器供与には反対している。特に農業大国であるブラジルにとってはロシアから輸入する肥料が不可欠なのだ。
 ブラジルは国際政治においても発言を強めて5月、プーチン大統領と電話会談を行い、「インド、インドネシア、中国とともに和平に向けてロシア、ウクライナ双方と話し合う意思があることを伝えた」。(「日本経済新聞」5/28)。
 なお、南アフリカのラマポーザ大統領も5月、複数のアフリカ首脳ともにロシアとウクライナを訪れ、和平の道筋について協議することを明らかにした(「日本経済新聞」5/17)。

(2)域内統合組織の復活構想
 ブラジルの首都ブラジリアで5月30日、政情不安定なペルーを除いた域内11カ国の首脳会議が開かれた。南米では左派政権が主流だった2008年に「南米諸国連合(UNASUR)」が結成されたが、2010年後半からブラジル等の右派政権の登場とともに、内部分裂を起こし崩壊した。今回、ブラジルでルラ左派政権が誕生したが、既に南米各国ではここ数年の間に左派政権が誕生していた(アルゼンチン19年、ボリビア20年、チリ22年、コロンビア22年)。ベネズエラでは1999年以来、一貫して左派社民政権が続いている。
 現在、南米共同市場(メルコスール)が存在するが、正式加盟国は4カ国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)で規模が小さい。そこで、ルラ政権は再び「南米諸国連合」のような域内統合組織の復活を目指している。しかし、アメリカが非民主的として制裁を加えているベネズエラ政権の性格を巡って、ルラ大統領がベネズエラ政権を擁護したことに対して、右派政権のラカジェポー・ウルグアイ大統領や左派・中道政権のボリッチ・チリ大統領が異論を唱え、地域統合組織の復活が容易ではないことも示された。「共同声明」では各国は民主主義や人権の尊重し、社会正義へのコミットメントを行いながら多様性と内政不干渉の原則の尊重で一致した。今回は具体的な組織構想の一致までは行かなかたが、ルラ大統領は、南米地域のおける「域外通貨」への依存度の減少、「共通通貨制度」の創設、地域エネルギー市場の創設や気候変動への対処などにおける連携を訴えた。

今こそプロレタリアートの国際連帯を
 第二大戦後の世界的対立構造は、社会主義体制(ソ連・東欧社会主義諸国・中国)の成立によって、社会主義体制と帝国主義体制との体制間対立となり、この対立に挟まれた多くの発展途上諸国は政治的には中立の第三国グループとして存在した。この第三世界グループの中には、エジプト、インド、インドネシアなど『社会主義への非資本主義発展の道』を歩む国と位置付けられた国々も存在した。
 しかし、現在の対立構造は基本的の異なったものとなっている。凋落しつつあるがなお巨大な軍事・経済力をもつアメリカを先頭とする西側帝国主義諸国のブロックが存在する。他方、大幅な市場主義経済を導入し急速に発展してきた中国や新たに帝国主義国として登場してきたロシア・インド・ブラジルなど新興帝国主義諸国、急速に資本主義発展をなしつつある南米左派政権の国々をも含むグローバルサウス諸国等を含めたブロック、この二つのブロックの対立が今日の世界経済と世界政治の対立軸となってる。
 グローバルサウスの諸国の多くは、かつて西側帝国主義諸国の植民地国として厳しい搾取・抑圧を受けてきたし今も受けているが、かつては社会主義ソ連と社会主義中国の政治的・経済的・軍事的援助を受けてきた。これらのグローバルサウスの国々が、ロシアのウクライナ侵攻に関して、帝国主義侵略者であるG7にロシアのウクライナ侵攻を非難する権利が今更どこにあるのか、という意識を持っているのは当然のことである。したがって、これらの国々が自らの利害に従って、中立もしくは「中・露」寄りの中立政策をとるに至ったのは、自然の成り行きという他はない。
 但し、G7諸国の内にも幾つかの政治的分岐があるのと同様、BRICSも決して一枚板ではない。各国の階級構成が異なり、中国とインドの如く国境紛争を抱え一面では敵対する関係にもある。ましてやグローバルサウスの国々にも更に複雑な階級構成や政治的傾向の違いがあることを見落としてはならない。
 従って、西側帝国主義諸国とグローバルサウスの対立が、世界経済と世界政治の展開軸となっているからといって、それが世界史の発展を規定していると考えるべきではない。なぜなら、現代社会の根本矛盾は資本と労働の対立であり、世界的規模における資本と労働の対立こそが世界史発展の原動力であるからである。西側帝国主義諸国内の賃労働と資本の対決およびグローバルサウス内の賃労働と資本の対決こそが、世界史の発展を規定するのである。そしてその合力が、「西側帝国主義」と「BRICS+グローバルサウス」の対立を軸として世界を回転させるのである。このことを片時も忘れるべきでない。そうしない場合、ロシアがBRICSの構成員であることから、西側帝国主義に対する対抗勢力であり、ウクライナ戦争についてもロシアを支持すべきだといった誤った判断を導き出しかねない。
 ウクライナ戦争の即時停戦と交渉による終戦を実現する力は、両国の労働者階級を中心とする人民の反戦闘争であり、国際労働者階級・人民の統一した反戦活動である。
 各国のプロレタリアートと共産主義者はこのような複雑極まりない現状況を正確に判断し行動するためには、いかに困難であろうとも、アプリオリーにいずれかのブロックを支持することなく、具体的に情勢を把握し、プロレタリアートの国際連帯の原則に立って闘うことこそが何よりも必要とされているのである。

 残念なことに、国際共産主義運動は昨年のハバナでの国際会議で示されたように、ウクライナ戦争の評価をめぐって深刻な意見の対立がみられる。それが故になおさらのこと、マルクス・レーニン主義の原則に基づいて、国際共産主義運動の真の統一が回復されなければならないし、われわれもそのための努力を重ねたい。                         (2022.6.6)