―― 韓国大法院(最高裁)「徴用工判決」判決 ―― 核心は日本帝国主義の朝鮮植民地支配の不当性(続編)

                                  岩 本 勲

 韓国最高裁「判決」の政治的歴史的意義については、本ブログの川下論文において基本的なことは既に述べられている。本稿は、「判決」の意義を主として法的側面から取り上げる。11月29日には、三菱重工業に対する元徴用工の賠償請求に対する最高裁小法廷の同様の判決が下された。この他、同様の請求権訴訟が十数件係争中である。最高裁判例は原則的に下級審を拘束するので、今回の最高裁判決と同様の見地に基づいた判決が下されることは確実である。

 日本政府及びマスコミは、韓国最高裁の判決を国際法違反と非難しているが、しかし、日本の弁護士・学者による有志声明がいち早く公表され(現段階で209名)、この最高裁判決の国際法的妥当性を確認した。同時に指摘しておかなければならないことは、日本の最高裁判例では「サンフランシスコ平和条約」の場合、国家間の損害賠償請求権は消滅しても実体としての個人の請求権を消滅させるものではないとしており(西松事件)、日本政府もかつては「日韓請求権協定」はもとより、国家間の請求権消滅を明記した国際条約によって個人の損害賠償請求権は消滅しない、という立場に立っていた。

 

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1. 韓国最高裁判決の歴史的意義

 今回の裁判の最大の国際法上の争点は、「日韓請求権協定」によって韓国人個人の賠償請求権が消滅したか否かの問題にあった。だが、ことの核心は繰り返すまでもなく、韓国最高の司法機関が「韓国併合条約」の非合法性と日本帝国主義による韓国(朝鮮)植民地支配下の不法行為を史上初めてはっきりと指摘し、これを断罪したことにある。

 この法的、歴史的意義を明らかにするため、元徴用工に対する日本の裁判所の不当判決、および、これを踏襲した韓国の地方・高等裁判所の判決、およびそれを覆した韓国最高裁判決を、順を追って紹介することとする。

 

(1)大阪地裁及び最高裁判決

 旧日本製鉄に徴用された元徴用工2名が大阪地方裁判所に損害賠償請求を求めて提訴した。これに対する大阪地裁判決は以下のとおりであり、これに対する原告の控訴、上告が棄却され(2003年)、原告の敗訴が確定した。大阪地裁判決の論理は以下のとおりであった。

①原告は、自由応募の形式で、その自らの自由意思に従って応募したので、強制連行ではない。但し、その労働実態からみて強制労働であった。

②強制労働を禁ずる国際人権規約B項の日本政府の批准は1979年(昭和54年)6月21日であるので、それ以前の強制労働については、同規約は適用されない。

③原告に賠償請求権はない。戦前においては、日本国家がたとえ私人に対して損害を与えても、「国家無答責」の原則が適用される(国家が私人に損害を与えても国家が私人に損害賠償の責任はない、という大日本帝国憲法下での専制的な原則)。

④旧日本製鉄と新日本製鉄に法的継承性はなく、新日本製鉄に賠償責任はない。

⑤時効および日韓請求権協定については、判断せず。

 

この判決は、自由応募という名目での徴用=事実上の強制連行の実態も、日本帝国主義による韓国(朝鮮)の植民地支配の不法性とその実態も、あるいは近年の人権重視の国際法解釈も、あるいは国際法の解釈にあたっては条約の文言の厳密な解釈及び文脈や事件前後の諸事情を勘案しなければならないという国際慣習法(「条約に関するウイーン条約」1980年に成文化)、等々をすべて無視した杓子定規な法解釈に従ったに過ぎないものであった。

 

(2)韓国における裁判の変遷

(a)地裁・高裁の却下判決

 日本の裁判で敗れた元徴用工が2005年、新日本製鉄に的を絞って損害賠償を求めてソウル地裁に提訴した。

しかし、ソウル地方法院(地裁)・ソウル高等法院(高裁)はともに、日本の裁判所による既判力(確定した判決を再び裁判しないという原則)を認めたたこと、および新日鉄と旧日本製鉄との継承関係は存在しないこと、等の理由によって訴えを退けた。

 

(b)差し戻しを命ずる最高裁判決の主な論点(2012年)

 元徴用工たちは最高裁に上告し、最高裁(小法廷)は、下級審の判決を破棄し、ソウル高裁に差し戻しを命ずる判決を下した。差し戻し理由は次の4点にあった。

①日本の韓国植民地支配は非合法であり、非合法を前提とした日本の判決もまた非合法であり、これを承認することはできない。

②旧日本製鉄と新日本製鉄とは法的同一性を有している。

③「日韓請求権協定」では、強制動員による違法行為に対する賠償請求権に関し、個人の請求権は消滅していない。「協定」の締結により、外交保護権(個人が外国政府・企業によって被った損害・被害を個人の本国政府が保護すること)を放棄したのみである。

④新日本製鉄が主張する消滅時効の完成による債務不履行は、著しく正義に反しかつ信義誠実に反する。

 

ソウル高裁はこの最高裁の判決に従って、元徴用工の賠償請求権を認めた。被告・新日本製鉄はこれを不服として2013年、最高裁に上告し、今回の最高裁判決となった。

 

 

(3)最高裁判決

最高裁判決の要旨は次のとおりである(以下、最高裁判決は、山本晴太他訳「2018.10.30新日鉄住金事件大法院判決」山本晴太ホームページによる)

1.基本的事実関係の認定

 ①日本政府は1931年に満州事変を引き起こし、1937年に日中戦争を引き起こし、次第に戦時体制になり、これに対応して国家総動員法(1938年)、「朝鮮人内地移入斡旋要綱」(1942年)を制定・実施、韓(朝鮮)半島各地で官斡旋を通じて労働力を募集し、1944年10月頃から「国民徴用令」によって、一般韓国人に対する徴用を実施した。

②基幹軍需事業体である旧日本製鉄などを中心に日本政府直属の鉄鋼統制会が設立され、日本製鉄は同会の会長を歴任するなど主導的役割を担い、日本政府と共同して韓(朝鮮)半島で労務者動員を積極的に実施した。

③原告らは2年間の訓練の後に技術者として採用されるとの募集要項に従って応募、訓練工として労役に従事した。

④しかし、労働実態は応募条件と全く異なった。休日はひと月1、2回、強制貯金、危険作業、粗末な食事、逃亡監視、激しい体罰、等々であった。

⑤日本政府は1944年2月頃、訓練工たちを強制徴用し、賃金も支払われなくなった(*注1)。

(*注1)日本政府が特定の鉱山や工場を軍需会社に指定し、そこでの労働者を徴用扱いにする「現員徴用」というやり方もあった。今回の元徴用工もこれに該当する(竹内康人、「朝日新聞」2018.11.23)

 

2. 4つの争点について

(1)日本の裁判の既判力の否定

「本件が日本裁判所で敗訴し確定したとしても、本件日本判決が日本の韓半島と韓国人に対する植民地支配が合法的であるという規範的認識を前提に日帝の『国家総動員法』と『国民徴用令』を韓半島と原告に適用することが有効であると評価した以上、このような判決理由が含まれる本件日本判決をそのまま承認するのは大韓民国の善良な風俗やその他の社会秩序に違反するものであり、したがって、わが国が本件日本判決を承認してその効力を認めることはできない」。

(2)日本製鉄と新日本製鉄の継承関係の承認

旧日本製鉄は、法律に基づいて2社に分割されたが、法的連続性を有し、新日本製鉄は旧日本製鉄の債務を継承する。

(3)損害賠償請求権は日韓請求権協定には含まれない

(ⅰ)「原告らの損害賠償請求権は日本政府の韓半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であるという点を明確にしておかなければならない。原告らは被告企業にたして未払い賃金や補償金を請求しているのではなく、慰謝料を請求しているのである」。(下線は引用者、以下同じ)

(ⅱ)日本政府は不法な日中戦争や太平洋戦争など不法な侵略戦争の遂行のために韓半島から労働力を動員した。その動員は日本政府と旧日本製鉄によって、「組織的な欺罔(キボウ)によって動員された」。これは「当時の日本政府の韓半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した反人道的な不法行為に該当し、これによって原告らは精神的苦痛を受けたことは明白である」。

(ⅲ)「強制動員慰謝料請求権」はサンフランシスコ講和条約及び1952年に始まる日韓会談における韓国政府の「対日8項目要求」にも含まれない(*注1)

(a)韓国はサンフランシスコ講和条約に参加していないので、韓日間の請求問題は2国間で決定することとなり、「韓日会談」が行われたが、同会談における韓国の対日8項目要求は、基本的に韓日両国間の財政的・民事的債務関係にするもので、日本政府の不法行為に対する慰謝料は含まれていない。

(b)大韓民国発行『韓日会談白書』(1965年)にも、韓国はサンフランシスコ講和条約の対象国でないため、日本に対する「損害および苦痛」は認められず、したがって、韓日間の請求問題に賠償請求権は含まれなかった、と明記されている。

(c)大韓民国政府は2005年8月、「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」(略称「民官共同委員会」)を開催し「請求権協定は日本の植民地支配の賠償を請求するための委員会ではなく、サンフランシスコ条約第4条にもとづき韓日両国の財政的・民事的債権・債務関係を解決するためのもの」(*注2)とした。

 (*注1)韓国側の1965年の説明でも8項目要求が賠償請求権でないことを明らかにしていた(太田修『日韓交渉-請求権問題の研究』p.282)。

(*注2)高裁差し戻し審は、「民官共同委員会」の記録では、「日本軍慰安婦問題等、日本政府と軍隊等、日本の国家権力が関与した反人道的不法行為に対しては、請求件協定で解決したとみることはできず・・・」という趣旨の公式見解が記載されていることを指摘している。但し、今回の最高裁での3名の個別意見は、同記録では「請求権協定を通じて日本から受けた無償3億ドルに強制動員被害補償問題を解決するための資金などが包括的に勘案された」とも記載されていることを指摘したが、しかし、個人の請求権については、「韓日両政府の意思合致あったと認める充分且つ明確な根拠がない」として、個人の請求権の存在は認めた。

 

(4)損害賠償請求権の消滅時効の否定

最高裁は高裁差し戻し審の見解を承認した。それによると、債務者が時効完成前に債権者の権利行使や時効中断を不可能にさせたり、若しくは顕著に困難にされたり、そのような措置を不必要と信じさせる行動をしたり、客観的に債権者が権利行使をできない障害事項があったりする場合は、債務者が消滅時効を主張することは、民法の大前提である「信義誠実の原則」に反し、権利濫用である。実際、「韓日請求権協定」によって個人の賠償請求権があたかも消滅したごとき風潮が韓国内にあったこと、旧日本製鉄の法的継続性が十分に判明しなかった時点においては、原告が賠償請求の訴訟を提起できなかったことは十分に理由のあることである。

(5)結論

  13人の最高裁判事のうち7名が上記判決に賛成、3名は「日韓請求権協定」によって消滅したのは「外交保護権」であり、個人の損害賠償請求権は存在するとし、1名が最高法院の差し戻し判決に従う以外にはないという個別意見、2名が個人の請求権は「日韓請求権協定」に含まれているとして、これを否定した(大法院広報官室)。

 

2. 個人の損害賠償請求権を認めた広島高裁、個人の請求権の実体的存在は認めた最高裁

(a)広島高等裁判所判決(2004年)

アジア太平洋戦争時に中国から強制連行され、強制労働を強制された中国人の損害賠償請求事件(「中国人強制連行西松建設事件」)で、日本の裁判ではいわば例外的に個人の損害賠償請求権を認めた判決例が、広島高等裁判所判決(2004年)である。

西松建設は1944年、中国から360人の中国人を連行し、水力発電所建設現場でトンネル掘削などをさせた。西松建設は粗末な食事しか与えないなど劣悪な労働条件と警察官・監視人の殴るけるの暴行のもとで奴隷的労働を強制した。原告の宋さんは事故にあい両目失明となった。

これに対して元労働者と遺族の5人が1998年、広島地裁に損害賠償の訴えを起こした。広島地裁は、不法行為責任行為の訴えに関する20年間の除斥期間(訴えを起こすことができる期間)を越え、債務不履行の責任についての10年間の時効が成立していること、等を理由に訴えを退けた。控訴審の広島高裁の判決要旨は次の通りであった。

①20年の除斥期間は認めたが、しかし、10年の時効は否定。その理由は、原告が戦後の混乱期に賠償請求の訴えを起こすことができなかった客観的な事情が存在したので、被告の西松建設が時効を主張することは権利乱用である。

②「日華平和条約」(1952年)、「日中共同声明」(1972年)における、中国側の賠償請求権の放棄をもって個人の請求権を放棄させることはできない。サンフランシスコ講和条約第14条(b)は国家の賠償権と連合国と連合国民の賠償請求権は放棄しているが、中華人民共和国はサンフランシスコ講和会議に参加していないこと、「日中共同声明」は中国政府の賠償請求権の放棄のみを宣言し、中国人個人の請求権に言及していないこと、等の理由によるものである。

 

(b)最高裁判決

最高裁判所は2007年7月、同事件の上告審において次のような判決を下した。「(サンフランシスコ平和条約の枠組みにおける)請求権の『放棄』とは、請求権を実体的に消滅させるものではなく、当該請求権にもとづいて裁判上訴求する権能を失わせるものにとどまる。・・・個別的具体的な請求権について・・・債務者側において任意の自発的な対応をすることはさまたげられない」。ここで注目すべきは、国際条約による損害賠償請求権の放棄は、(イ)個人の損害賠償請求権を実体的には消滅させない、(ロ)しかし、裁判によってそれを実現することはできない、という極めて矛盾した奇妙な内容となっている。この矛盾にも拘わらず、個人の損害賠償請求権の実体的存在を認めざるを得なかった点に注目すべきだ。

結局、原告は実体として存在する損害賠償請求権に基づいて西松建設と和解し、西松建設は2億5000万円を拠出した。

 

3. 日本政府見解の180度転換

 日本政府は1990年初期のころまでは、条約による損害賠償請求権の放棄は個人の損害賠償請求権放棄を意味しないという見解であったが、日本政府・企業が損害賠償裁判の被告になるや否や、その立場を一転させた。

①日本政府は、「サンフランシスコ講和条約」の損害賠償の規定(第14条)に関しては、個人の請求権を認めていた。例えばトルーマン米大統領に対する日本人の原爆被害の損害賠償訴訟(1955年)では、日本政府は「個人が本国政府を通じないで、これと独立して直接に賠償を求める権利は・・・国家が外国との条約によって、どういう約束をしようと、直接にはこれに影響は及ばない」と主張していた。あるいは、シベリア抑留問題に関し、1991年3月26日、参議院内閣法制委員会で外務省アジア局長高島審議官は、日ソ共同宣言における日本の賠償放棄について、「我が国国民個人からソ連または、その国民に対する請求権まで放棄したものではない」と答弁し、「ソ連の国内法上の法制度に従った」個人の請求権の行使はできるとの見解を示した。

 また川下論文で指摘した、日韓条約における個人の請求権に関する柳井俊二・外務省条約局長の答弁(参院予算委員会1991年)は、「外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません」とはっきりと述べている。

「外務省調査月報」(1994年、No.1)にも次のように明記されている。「『国家が国民の請求権を放棄する』という文言の意味は、・・・国内法上の個人の請求権自体を放棄するものではなく、国際法上、国家が国民の請求権につき国家として有する外交保護権を放棄するものであるとの解釈も、日本政府がこれまで一貫してとってきたところである」。

②ところが、日本の下級裁判所において時効や国家無答責について、日本政府や企業に不利な判決が現れ始め、アメリカのカリフォルニア州裁判所が韓国の強制動員被害者の日本企業に対する訴訟の管轄を認めるや、これまでの「外交保護権の放棄のみ」論を一転させ、個人の損害賠償請求権までを否定するに至ったのである。(以上の①②は、山本晴太ホームページ「日韓両国の日韓請求権協定解釈の変遷」、参照)。

 

4. 元徴用工の韓国大法院判決に対する弁護士有志声明

 有志声明はマスコミにはほとんど紹介されていないので、その一節を紹介しておく。「声明」は、安倍首相の「国際法に照らしてあり得ない判断である」という国会答弁に対して、これこそ「日韓請求権協定と国際法への正確な理解を欠いたものである」として、その誤りを鋭く指摘している。

「声明」は、まず韓国最高裁判決の核心部分を正確に次のように紹介した。最高裁判決によれば、「元徴用工の損害賠償請求権は、日本政府の朝鮮半島に対する不法な植民地支配及び侵略戦争の遂行と直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求権であり・・・(それは)日韓請求権協定の対象外であり、韓国政府の外交保護権と元徴用工個人の損害賠償請求権のいずれも消滅していない」。

その上で、「声明」は元徴用工問題の本質は人権問題であると捉え、元徴用工の労働実態は、強制労働(ILO第29条号条約)や奴隷制(1926年奴隷条約参照)にあたるものであり、重大な人権侵害であると判断した。したがって、本件のような重大な人権侵害に起因する被害者個人の損害賠償請求権について、「国家の合意により被害者の同意なく、一方的に消滅させることはできないという考え方を示した例は国際的にも他にある(例えばイタリアのチビテッラ村におけるナチス・ドイツの住民殺害事件に関するイタリア最高裁判所(破棄院)など)。このように、重大な人権侵害に起因する個人の損害賠償請求権を国家が一方的に消滅させることはできないという考え方は、国際的に特異なものではなく、個人の人権侵害に対する効果的な救済を図ろうとしている国際人権法の進展に沿うものといえるのである(世界人権宣言8条参照)」。

 安倍首相やマスコミによる韓国最高裁判決に対する理不尽な非難の洪水の中にあって、今回の「声明」は極めて注目すべきものといえる。ただし、「声明」が解決策として相互に批判しあうのではなく、本判決を機に根本的解決を行うべきであると」と提唱しているが、しかし、一方的に非難しているのは安倍政府の方であり、したがって、根本的解決を図るためには、まず、日本政府・企業が本判決を承認することが必要なのではあるまいか。

 

5. 「韓国併合条約」と韓国植民地支配下の人権侵害を繰り返し弾劾すること

安倍政府・企業及びマスコミは問題解決の責任を韓国政府に求めているが、しかし、この責任追及は本末転倒である。責任を負うのは日本政府と日本企業である。

一部マスコミや論壇に日韓両国首脳の話し合いや和解論の提唱があるが、しかし、この提唱が成立するための基本前提は、まずは日本政府・企業が「韓国併合条約」の不法性と韓国(朝鮮)植民地支配下の深刻な人権侵害を認めることである。

一方、「徴用工」を「朝鮮半島出身労働者」という極めて陋劣な言いかえによって、事の本質を隠蔽しようとする安倍首相には、問題解決に対する誠意のひとかけら見いだされない。これでは、いかなる話し合いや和解も存在する余地はない。それは、日本政府の責任や謝罪を全く不問にし、元「慰安婦」の意向も全く無視したうえで、安倍・朴槿恵両政府によって合意された、日本軍性奴隷問題に関するいわゆる「和解・癒やし財団」が、わずか2年で破綻を余儀なくされた事実によって、如実に証明されているのだ。

今後も韓国の裁判所において次々に、韓国植民地支配下での人権侵害に対する賠償請求権が承認されることは間違いない。その都度、今回と同様の非難が日本政府とマスコミによって繰り返されることは間違いない。だからまた、繰り返し、「韓国併合条約」非合法性を主張し、韓国(朝鮮)植民地支配下の深刻な人権侵害を告発し続けることが喫緊の課題となっている。(2018.12.2)