《新刊紹介》昭和天皇と戦争問題を問う新刊書2冊

 大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

推薦強度Bランク

  1. 昭和天皇の戦争認識 「拝謁記」を中心に
    山田 朗  新日本出版社 226頁
    2023年7月7日 刊  ¥1,870

 初代宮内庁長官・田島道治の「昭和天皇拝謁記」【全7巻】(岩波書店2021~2023)を踏まえて、昭和天皇の戦争認識、植民地抑圧認識、戦争責任認識、憲法観を明らかにしている。「拝謁記」の特徴は、「昭和天皇実録」「昭和天皇独白録」や他の側近の日記や回想などに比べ、天皇の肉声と言えるものを詳細に記録している点にある。
 田島道治氏がどんな人物か詳しくは知らないが、昭和天皇の実像(彼の天皇像とはかけ離れた)を記録せずにはおかない執念のようなものを感じる(のは入れ込みすぎか)。

  1. 増補 昭和天皇の戦争
    山田 朗  岩波現代文庫 376頁
    2023年9月15日 刊  ¥1,837

 初版「昭和天皇の戦争」(岩波書店)(2017)に対して「田島道治『拝謁記』から見た昭和天皇の戦争」を補章とする増補版。

 

唯物論的歴史観

 

 

《新刊紹介》「関東大震災と朝鮮人虐殺」関連の新刊書

            大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

 今回は、「関東大震災と朝鮮人虐殺」関連の新刊書で、既読書を紹介します。ややマニヤックなものになりましたが、これ以外にもアマゾンで取り扱っていない数点は、書店注文で未入手です。入手してから読了後、紹介します。また、「現代史資料 第6巻 関東大震災と朝鮮人」の普及版としての復刊も重要ですが、資料ですので省きました。 私が推薦したい重要度を、A、B、Cのランクで表しました。

 

Aランク

  1. 歴史評論 2023年9月号
    特集 関東大震災研究の論点と課題2023
    歴史科学協議会 ¥1,045
  2. 関東大震災 朝鮮人虐殺の真相
    関原正裕 新日本出版社
    2023年7月25日刊行 ¥1,980
  3. 部落解放 2023年9月号
    特集 関東大震災とジェノサイド
    解放出版社 ¥660
  4. 前衛 2023年9月号
    特集 関東大震災100年と朝鮮人虐殺
    日本共産党中央委員会出版局 ¥744

Bランク

    5. 関東大震災 朝鮮人虐殺を読む
  劉永昇 亜紀書房
  2023年9月1日刊行 ¥1,980

    6. 関東大震災と民衆犯罪
  佐藤冬樹 筑摩選書
  2023年8月15日刊行 ¥1,980

    7. 現代思想 2023年9月臨時増刊号
  総特集 関東大震災100年
  青土社 ¥1,540

    8. オサヒト覚え書き 関東大震災篇
  石川逸子 一葉社
  2023年7月1日刊行 ¥2,200

    9. 協和会 戦時下朝鮮人統制組織の研究(増補改訂版)
  樋口雄一 社会評論社
  2023年6月15日刊行 ¥2,970

Cランク

  1. 文豪たちの関東大震災
    児玉千尋 編 恒星社
    2023年7月6日刊行 ¥2,200

 

唯物論的歴史観

 

関東大震災100周年 ―そこから何を学ぶべきか― 補遺(その1)

         大阪唯物論研究会会員 岩 本  勲

 標題の拙稿を脱稿して後、関東大震災に関する多くの文献・資料が新しく発行され、加えて映画「福田村事件」が上映された。これらのすべてに言及することは、筆者の能力を遥かに超すことなので、少なくとも筆者が接した新たな文献・資料の紹介に留めざるを得ない。

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『宇宙創造に関する標準モデル』(ビッグバン宇宙論)への疑問

—— 唯物論的宇宙観の確立のために ——

                                      大阪唯物論研究会会員 兵庫正雄

Wikipediaに掲載されている『宇宙発展の模式図』 出処:(宇宙の年表 - Wikipedia)

【はじめに】

 本稿では、宇宙創造に関する標準モデル、すなわち一般には「ビッグバン理論」と呼ばれているものについて考察する。本稿で宇宙論を取り上げる理由は、それが「唯物論か観念論か」という哲学上の根本問題を提起しており、現代宇宙論が現代観念論の根拠付けに利用されているからであり、それを批判することによって唯物論的世界観の再確立に寄与するためである。天文学上の知見に新しいものを付け加えることを意図したものではないことを始めに断っておく。

 今日、天文学の標準理論として、「ビッグバン理論」あるいは「ビッグバン・インフレーション理論」が大多数の宇宙物理学者たちによって支持されており、それに疑問を呈する学者は圧倒的少数である。しかし言うまでもなく、事柄の真偽はそれを支持する人の数によって決まるものではない。筆者は、「天文学の標準理論」に疑問を表明している少数の学者たちの見解をフォローしながら、唯物論的見地から現代宇宙物理学が陥っている観念論の袋小路を批判的に検討し、唯物論的宇宙観の再確立のための作業を続けてきた。

 ところで「ビッグバン理論は、宇宙が非常に高温高密度の状態から始まり、それが大きく膨張することによって低温低密度になっていったとする膨張宇宙論である。」(Wikipedia)と一般には理解され、表紙のような図が宇宙の歴史として示される。この広大な宇宙が、137億年前には直径1cm程度の大きさであったとされ、さらに「インフレ―ション理論」によれば、ビッグバンの10-33秒前には、直径が10-33cmの極小の粒であったという。「インフレ―ション理論」のような光速の1022倍もの膨張速度は一旦脇に置くとして、直径1cm程度の宇宙が膨張を続けて137億年後の今日、今我々が観測しているような広大な宇宙に成長してきたとする「ビッグバン理論」は、観測される諸データから、「今現在、宇宙は膨張している」という結論に導く「宇宙膨張論」に基づいている。例え「宇宙膨張論」が正しいとした場合でも、その膨張傾向を過去に敷衍(ふえん)して、「宇宙は、かつては極小の粒から出発した」という結論を導き出すのは論理の飛躍である。そして「宇宙膨張論」自体が正しいかどうかも、当然吟味される必要がある。本稿は、この「宇宙膨張論」自体に対する疑問を表明するものである。

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《新刊紹介》羊の怒る時 関東大震災の三日間

        大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

+

今回は、この一冊!

羊の怒る時 関東大震災の三日間 江馬修 著
ちくま文庫 2023年8月10日発行 ¥924

 関東大震災時の実体験をもとにした朝鮮人虐殺を告発すると同時に、自戒の念をも込めたドキュメンタリー小説。
 1924年12月から1925年3月まで「台湾日日新聞」夕刊に連載(104回)。

 1925年10月 聚芳閣より単行本として出版。
 1989年10月 朝鮮大学校・副学長朴庸坤の働きかけで影書房より復刻。
 2023年8月 関東大震災100年の年に、影書房版が文庫化し、復刊された。
 「江馬修」について初見の人は「日本社会運動人名辞典(青木書店)」をご参照下さい。なお古書「日本社会運動人名辞典(青木書店)」が入手困難な場合は、江馬修 - Wikipediaをご参照下さい。

 

唯物論的歴史観 (hatenablog.com)

 

関東大震災100周年

—— そこから何を学ぶべきか ——

     大阪唯物論研究会会員 岩 本 勲

 まもなく9月1日がやってくる。この日は「防災の日」とされており、政府や地方自治体では、種々の防災行事を予定している。「防災の日」とされる所以は、「明治維新」(1868年)以降の日本の地震災害として最大規模の被害を出した「関東大震災」が、1923年の9月1日に起こったことによる。そして今年は、その「関東大震災」の発生から100年目に当たる。
 「関東大震災」の被害は、死者約10万5千人(推定)、全壊家屋約11万戸、焼失家屋約21万戸というすさまじいものであった。「東日本大震災」の死者・行方不明者数22,318名、「阪神淡路大震災」の死者数6,434名と比べても、その被害規模の大きさが知られる。従ってこの「防災の日」に、大規模地震災害について考え、防災問題への取組みを点検することの意義は論を待たない。
 地震災害に対する防災問題で真っ先に立ち返るべきは『東日本大震災』の経験と教訓である。その第1は、地震大国日本での原子力発電施設の存在は許されないということである。しかるに政府は、先の通常国会においてGX電源法を成立させ、休止原発の速やかな再稼働、老朽原発の事実上の無期限運転、新型原子炉の研究開発推進、放射能汚染水の海洋投棄といった原発推進姿勢を鮮明にし、福島原発事故など無かったかのように振る舞っている。それでいて、政府やそれに追随する地方自治体は、「防災の日」に、いったい如何なる経験と教訓を振り返るというのであろうか。
 政府や与党の防災対策といえば、「国土強靭化計画」といった土木・建設関連事業に偏重したものが中心に据えられているが、「東日本大震災」の経験・教訓は、避難体制の整備(避難の権利の保証、質を担保した避難所と仮設住宅、避難手段の確保、医療・介護施設の即応体制、被災者生活支援等々)が優先事項であることを教えている。
 ところで、本稿で取り上げようとするのは、以上のような防災問題ではない。われわれが『関東大震災』の100年を振り返るとき、絶対に忘れてはならないことがある。それは、極度に混乱した状況の中で、国家権力が扇動し、偏見に囚われた群衆を巻き込んで引き起こされた社会的少数者(マイノリティー)に対する、身の毛のよだつおぞましい集団暴行・虐殺事件である。
 この集団暴行・虐殺事件の被害者は、大日本帝国に強制占領(併合)され、『帝国臣民』にされて内地(日本)に住んでいた朝鮮人や台湾出身者、絶対主義天皇制の下で徹底的に弾圧されていた共産主義者、社会主義者、無政府主義者などの『危険思想分子』や、被差別部落民、等々の社会的少数者たちであった。
 この集団暴行・虐殺事件の記憶を今に伝え、その原因を突き止めることが何故必要なのか。それは、この集団暴行・虐殺事件が、百年昔の物語としてあるだけでなく、状況次第では再び繰り返される恐れのある、今日的問題でもあるからである。
 本稿はこの視点から、以下にこの集団暴行・虐殺事件の跡をたどりながら、事件の背景と原因をより深く認識し、それを読者諸氏に伝えることによって、この愚かしく忌まわしい事件を繰り返させないための民主主義的世論形成の一助となることを願う次第である。
 なお、特別の事情がない限りは、戦前における朝鮮半島出身者は「朝鮮人」と、戦後における朝鮮半島出身者は「在日コリアン」と表記する。

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『チェルノブイリ並み被ばくで多発する福島甲状腺がん 線量過少評価で墓穴をほったUNSCEAR 報告』

            大阪唯物論研究会会員 城 崎 肇

 さる3月31日、「福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会」が、表題の書籍を「耕文社」から世に出した。東京電力福島第一原子力発電所の事故から12年が経過した。あたかも福島原発事故などなかったかのように、岸田政府と電力各社は、GX推進法を成立させ、原発の再稼働を急ぎ、世界的に見ても類を見ない老朽原発の運転、運転期限の際限のない延長策、「新型炉」の研究開発に大きく舵を切った。事故の傷跡は今もいたる所に残っている。それにも関わらず、事故の傷跡を見えにくくするために邁進している。高線量地域での避難解除、避難者への支援の一切の打切り、被ばくによる小児甲状腺がんの多発、増え続ける汚染水、約束破りの汚染水放出計画の推進、基盤のコンクリートが失われた事故炉の倒壊の危険などの深刻な諸問題を覆い隠す作業を続けてきた。そして多くのマスメディアも、そのような政府と電力各社に忖度している。

 政府は、これらの深刻な諸問題を大した問題でない、あるいは全然問題ないかの宣伝を、いわゆる御用学者を動員して行ってきたし、今も続けている。さらには、国連関連諸機関を使って自己の正当性を担保してもらうことに努めている。汚染水の海洋放出については『国際原子力機関(IAEA)』が、小児甲状腺がんについては『原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)』が、政府の見解にお墨付き、安全宣伝の口実を与えている。ごく普通の人なら、国連が関係した国際機関の専門家がお墨付きを与えているなら「正しいのだろう」と思うだろう。そこが政府や電力会社の狙いである。

 しかし世の中には、研究費や種々の委員委託費等による利益供与を受けて、平然とニセ科学を駆使する御用学者とは異なり、科学者の良心に忠実で被害住民の側に立って奮闘する学者がいる。今回発刊されたB5版の書籍は、その表題にあるように、多発する福島甲状腺がんという事実を否定する『UNSCEAR 報告』の非科学性を、様々な方面から徹底的に批判する誠実で勇気ある科学者たちの労作である。一人でも多くの人に購読してもらいたいと思い、読書案内をブログに掲載することにした。

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